高山地帯の植生の破壊と回復

はじめに
 高山地帯の植生回復といえば、土田先生が第一人者であろう。高山地帯だけではなく、高原や川原なども含まれるだろうが。今日は中央アルプス高山地帯の植生回復の委員会で、土田先生の隣に座らせていただいた。私は自然保護の会を代表しての参加なので、専門家ではなく、利用者の立場の運動家としての参加ということであった。
 中央アルプスの山頂部は昭和42年にロープウェイが作られて以来、利用者の増加でお花畑から、ハイマツ地帯まで踏み荒らしによって裸地化が拡大してきた。土地は国有林、利用施設は借地によって自治体と企業が運営している。利用者の一部の登山者の団体から環境破壊の防止のために自然保護の会が作られた。こうした関係者の間で、環境保全への合意が成立し、協力関係が成立してきた。
 しかし、植生回復は破壊の防止以上に困難を極める問題といえる。国有林を中心に、利用者の侵入防止とともに植生回復への取り組みが数年前より始まったが、まだ、試行の実験段階であるといえる。植生回復はアサとシュロのマットを張って土砂の移動を抑止し、そこに、高山植生の種を採取して、播種するものである。この作業は、ボランティアを募って行われるが、その効果は翌年にならないと分からない。また、植生回復が持続するか、植生が定着するかは数年を経なくてはわからない。
 この結果をモニターしてまとめたのが、環境アセスメントの会社であった。その会社の報告に対して、検討するのが今日の委員会であった。

砂の影
 昔の状態を覚えている人は、裸地の範囲は広くはなかったそうである。高山の厳しい気象条件が裸地の要因ではなかったが、一端生じた裸地はこの厳しい条件によって植生回復を困難にし、拡大する要因にもなっているのだろう。裸地化の最初の要因は、利用者の踏み荒らしによるものと考えられている。
 しかし、高山植物は荒廃地に生育する種類を含んでいて、川原の植生と同様に荒廃した場所を好んで生育し、荒廃がなければ、他の種の生育のために、衰退するものもある。高山植物は厳しい環境に強いのか、弱いのか、環境の破壊と修復の中で種の攻防がどのように行われているのか、非常に複雑な問題であるのだろう。人為的な裸地化も、自然的な土砂崩壊による裸地化も、植生にとっては、裸地に進出する種の好条件を与える点では同等な場合もあるだろう。人為的な裸地化は踏み荒らしなどの場合に何度も繰り返され、植物生育の時間的余地を生じさせないことが問題であるだろう。自然の流動する土砂は堆積によって安定し、それがまた、侵食されて流動する。破壊と破壊の間に体積して安定し、そこに植生が回復する余地が生じる。
 大規模となった裸地では土砂が絶え間なく流動して、植生が回復する安定した場所が失われる。マットの貼り付けは土砂の安定に効果を発揮する。そこに植生回復の可能性が生じる。植生の回復は、被覆となって、マットが腐朽しても、土砂を安定させることになる。それがうまくいっているのかが、委員会の検討事項であった。