森林風致のための中庭デザイン

はじめに
 森林風致計画研究所の総会があり、会員が集まり、幾人かが事務所に泊まった。事務所のあるマンションの中庭の再整備の案が検討中であるので、2人の会員の造園と土壌生物の専門家に見てもらった。
 中庭は3階の建物に3方を囲まれ、日差しが僅かしか届かない空間に、20数センチの高さ、幅、20cmほどのベンチにもなる、囲いの中に、大小20数石の自然石が配置され、コケと羊歯が疎らに生えている。住居の裏に面した南側には、コウヤマキが6本等間隔の列で植えられている。30年程前のマンションの建設当初には植栽が施され、見栄えのする景観であったというが、今は裸地が目立ち、そこに雑草が進入するという状態となっている。

中庭のイメージ
 一番手前の裸地を、中庭の枡の基礎を見るために基礎まで掘ってみると、石礫の基礎となっており、透水性は悪くはなそうであった。一応、前もって用意した粗朶の束を基礎に敷き込んで土砂を埋め戻した。土は一番下が山砂が10cmほどの層をなし、その上に山土がやはり10cmの層で表土は2〜3cmの黒土であったが、踏まれて固結していた。掘ったことで、土がほぐされて、植栽に適した土壌であることがわかった。そこに、蛇の髭を一面に植え付け、石際の羊歯は残し、ヤブランを補植しておいた。
 上方からだけ光が差し込む中庭は、細長く奥まっており、石の配置もあって、丁度、山中の小さな谷間のようである。造園の専門家は枯山水を思い浮かべ、中庭の開口部の視点からスケッチをはじめて、植え込みを加えていった。土壌生物の専門家は、コケや羊歯、と石の状態を見て、亜高山帯の森林の林床を思い浮かべた。

中庭のデザイン
 中庭はその空間特性からデザインは条件づけられている。最初のデザインで石の配置を行ったところから、もう、そのデザインを再現するほかはないようである。しかし、30年の歳月のうちに、最初の植栽は衰退し、いくらかの生き残った樹木と適地として生育したコケとシダが生育し、状態を変えている。最初のデザインの植栽に条件と適合しない点がこの変化をもたらしたのだろう。この変化は、利用上、眺めを重視した庭が、子供たちの遊び場になって踏み荒らされたことにもあるのだろう。この変化した条件の上で、最初のデザインを転換させるようなデザインの可能性があるのであろう。
 専門家の見るごとく、コケの生育は深山や亜高山帯の林床を思い浮かばせる。また、石の配置と禿げた土地は、枯山水であり、川原の景観を思い浮かばせる。林床、谷、川原、そして、雑草(ハルジョオン)の進入した裸地を野とすれば、奥山から里への縮景が生じる。しかし、これはあまりにも箱庭的である。白く塗られた庭を囲む、桝の縁は、まさに、箱庭の鉢である。これを、中庭全体が、林内であるように、隠さなくてはならない。
 というよりは、この中庭自体が、建築の内部にある谷間であり、上方から光は木漏れ日となり、下層の樹木と林床を庇護する空間でなくてはならなかった。そうでなければ、開放的な西洋の中庭(パティオ)であって、人の集う場でなくてはならないわけである。
 箱庭のミクロと林間のマクロな空間の相克、利用における眺めと交流の相克を克服することが、過去のデザインを転換させるデザインを生み出す契機である。実際、過去の庭は荒廃した状態となった。その再生は、30年後から将来につながる住民全体のデザインの過程を構成する。住民の現状評価とデザインの選択はこの過程の一部となる。結局、誰のためのデザインであるかが、そのデザインを決することになるだろう。

植栽
 既に存在する石の間に生育しているコケやシダの間の裸地に、また、雑草を除去して、ジャノヒゲ、ヤブランを植えた。コゴミの株をシダの間に植えてみた。また、コアジサイの鉢を大きな石の間に移してみた。今、ギボウシを買ってきて、植える準備をしている。小さな石を移動して、中庭の縦の方向に砂利を敷く場所を示そうとしている。これは、住民に提示して、検討してもらう案の準備である。