信州の川端ヤナギ

はじめに
 川端柳といえば枝垂れ柳に決まっている。江戸や堺の堀端には枝垂れ柳が植えられ、川柳を楽しむ人がいたのであろうか。しかし、信州の川端柳は枝垂れてはいない。川原に自然に生えてくる柳である。松本の街中に女鳥羽川が流れているが、その川中の堆積地にある柳である。明らかに植えたものではないであろうが、河岸の擁壁から街中に突き出して、緑陰となっている。信州桜がエドヒガンの枝垂れた変種で、各所に植栽されているのに、枝垂柳でないのは面白い。川原にいつの間にか入ってきたヤナギが刈り残されて成長したのであろう。時にそのヤナギから橋が柳橋となづけるようなことにもなる。
 ヤナギ科の樹木は馬場先生の葉でわかる樹木に、学名でPopulusからSalixのついた14種の樹種が含まれている。salixで種名にヤナギとついているのは、ドロヤナギ、オオバヤナギ、ケショウヤナギ、コゴメヤナギ、イヌコリヤナギ、ネコヤナギ、タチヤナギ、ヤマネコカナギ、シダレヤナギ、オノエヤナギ、ウンリュウヤナギの11種である。シダレヤナギ、ウンリュウヤナギは中国原産の園芸種であるので、9種が日本の自然のヤナギである。いずれのヤナギの種も日本中広く分布している。ヤナギの種子は風で広く飛び、裸地にも生育するが、川原が適地なのであるのだろう。

次代のヤナギが育ち、川中の花壇の管理にも残されている。

市街の風致
 地方都市が高密でないだけ、オープンスペースとともに空間に広がりがある。高層化されてない分だけ、平面的に雑然とした市街が占めていることが多い。そして、沈滞した中心市街に、空き家が増え、駐車場なども増えて閑散としてくる。松本市はこの雑然とした市街と空き地を再整備して、空間の広がりが出来た。
 この空間こそ風致の要因となるものだろう。広くなった街路に街路樹や植え込みがあり、歩道の舗装に意匠が施される。建物は低層から中層化され、新しくなり、看板や広告が整頓された。街灯も程よく配置され、空の広がりにシルエットを描いている。しかし、これらは物理的な整備である。元からある川や井戸端の樹木などの自然が際立ち、町の住人の生活と心遣いが、清掃や園芸に反映したとき、突然に町が風致的に感じられてくる。

水辺の風致
 「みたから」の大将は魚釣りの趣味を持ち、付近の河川に精通している。写真のヤナギもどこに生えているか、すぐに検討がついたとのことである。最近、縄手町に店を移し、山肉(鹿や猪など)を扱って、いずれもおいしいい料理を食べさせてくれる。柳は縄手町からほんの下流にある。最初にうどん屋の暖簾をくぐって、店に入って、大将の取ってきた川魚を焼いてたべさせてもらった。それから、川の談義に聞きほれたものである。
 今回の話は、柳の下には魚が棲んでいるそうである。柳も葉の長い種類(清水談:オノエヤナギ)に限るとのことである。葉に虫がついて、それを狙って魚が集まるとのことである。川魚は清流に棲んでおり、川が汚れ、護岸がコンクリートに固められては、魚も棲むことができない。街中に鱒の棲んでいる川があるとは、何と恵まれていることだろう。川は山から里を通って、街まで流れてくる。街にいて水の流れは、山の様子を表している。市街の中心を流れる女鳥羽川は深いコンクリートの河岸に囲まれているが、周囲の山地に結合する水脈が、開放感をもたらしている。