小さな自治体

はじめに
 数年前に、自治体の経済的困窮のために広域合併が各所で勧められた。上伊那地域では長谷村と高遠町伊那市に合併した。長谷村の人口は2000人台で、伊那市の地区人口の規模であったが、戦後の町村合併以降、独立した自治体として持続してきた。南アルプスを広大な区域に散在する集落は廃村となるところもあり、村の中心地区に近い場所でのダム建設で人口流出のきっかけとなった。村おこしに連携して、大学から公開講座の協力を申し出て、数年、住民の方々と親しくしていただていた。村おこしは大分県などの地域活性化を見習い、閉鎖的な山村住民の意識改革などを進め、大きな成果があったと考える。しかし、行政体の持続が困難と判断されたのか、合併に踏み切ったようである。
 南箕輪村は人口も1万人程度の規模で、伊那市近郊で人口も増加する自治体であるが、広域合併に踏み切ろうとした時期がある。長谷村と相違し、面積は最小規模の村であり、地域住民のまとまりの良いむらであった。大芝村有林はこの村の住民のよりどころとなって利用されており、明治の学校林のための植林、財産としての村有林の経営、都市公園としての整備と常に、村民の論議を呼びながら維持されてきた。この村有林の生活環境林としての整備をめぐって、私も関与してきたので、やはり、村民の方々と親しく付き合ってきた。村はこの村有林に未来子供センターが立地しようとして、誘致を推進していたが、それが実現しなかったことが、広域合併への迷いとなったのであろうか。しかし、村民の激しい議論の結果、広域合併には踏み切らなかった。
 上水道、下水道、ゴミ処理施設、総合病院など広域行政の課題は大きく、一自治体で対処しきれない問題が多くなってきて、自治体間の広域連合が各地域に作られている。上伊那広域連合は10自治体の連合として出発したが、広域合併によって、伊那市が飛びぬけて大きな自治体となり、広域連合の中心となっている。伊那市のような広域自治体と広域連合は重複し、問題を複雑にしている。こうした中で、自治の意味が忘れられてきたのではないだろうか。広域合併に踏み切らなかった自治体が混在するなかで、広域合併の功罪を検証し、住民自治の組織を見直す必要があるのではないだろうか。

自治の持続
 広域自治体の中の地区となってしまった自治体は、地区の自治によって持続することになる。

社会福祉施設での経験から
 南箕輪村社会福祉施設の造園のためにロータリーの植え込みの調査に行った時、施設の事務局長に昼食を誘われた。社会福祉施設に集まった人たちが、食事を共同で作っているという。一食、200円で来た人も食事会に参加できるという。参加すると、20人ほどの人々で、食事をしており、すぐに、誰彼となく、私たちにも食事をよそおってくれた。介護、養護のデイケアの施設であるが、住民のサークル活動などにも利用してよく、村の様々なサークルなどが集まってきているそうである。食事会も和やかで、初めての私も家族のように親しく感じられた。
 小さな自治体で、住民の多くの人が顔見知りで、このような施設で親しく交流している。