樹木空間

はじめに
 空間は単なる広がりではあるが、建築空間では居住のために天井、壁、床を作って、囲われた空間を作り出す。また、建築物の集合によって生まれる都市空間は、街路や広場に面して建築の外観が並び、街路の壁面を構成して街路空間によって構成される。森林は樹木の集合によって構成され、樹冠によって天空を覆う樹木空間が連結して、林内空間を作り出す。単木の樹冠の下に入ると、森林の単位となる樹木空間を知覚できるが、林内ではそれが連結しているために、樹木の独立した空間に注意を向けない。また、孤立した単木は樹冠の外観を知覚するが、林内では個々の樹木は幹や枝を知覚するだけである。
 ここで言いたいことは、森林から樹木を伐採して生じる空隙の空間である。1本の樹木を取り除くことによって生じた空隙は、除かれた樹木が占めていた空間に該当する。その空間は、隣接した樹木を知覚させるものとなる。樹木の外観に開けた空間は、樹木の生育にとって受光し、生育場所を広げるために使われ、やがて、閉鎖し、林内空間の一部となる。

間伐の選木
 間伐では残された樹木の生育が盛んとなるように、支障となる隣接木を除こうとする。どの木を残すかによって、伐採する木が決まってくる。しかし、収穫のための間伐では、まず、伐採する木が決め、結果的に空隙の周囲に残された樹木の生育が促進されることになる。均等に配置された植林地では、どの木を残すかを決めるのは難しいが、形質の悪い木を見つけるのは容易である。しかし、形質の悪い木は競争に負けた劣勢木であり、放置しても衰退する公算の多い木である。残された木の生育のために間伐するのは、空隙を確保することが必要である。そこに、樹木が占める空間の知覚が個々の樹木の形質の判断以上に必要がある。
 森の中に樹を見ることは、樹によって森をどのように構成していくかを判断する上で必要といえる。