森林づくり指針

はじめに
 長野県ふるさとの森林づくり条例が施行されたのは、平成17年1月1日からである。その眼目は「木材生産機能を軸とした林業政策」から「森林の多面的機能の持続的な機能の持続的な発揮を目指す森づくり」へ転換するとのことである。現在、森林づくりの指針が見直され、県民からの提言を要請しており、締め切りが近い。
 こうした条例が制定されても、森林づくりの目標は全体的な目標はみえず、様々な諸問題が生じて混迷しているのが現状といえる。この混迷を脱却するための提言が求められているのであろうか。
 この提言への要請は、ただ、県民参加で意見が聴取されたという民主的な手続きのためなのであろうか。従来の森林指針から県民の意見を入れて、どのような改正が考えられようとしているのか、不明であるが、だからこそ、意見の提出が求められていると理解すればよいのだろうか。そこで、県民の一員の責任から意見提出を試みる。行政担当者が把握しているような森林の実態を把握しているわけではないので、憶測と思いつきの主観的な意見に留まることは止むを得ないが、これは、出された意見の多くに該当するのではないだろうか。その限界を考えて意見集約を期待したい。

長野県で考える森林問題
 森林の現状の憶測であるが、林業政策から森林の機能を発揮させようとするこれまでの森林指針は、それぞれ実現されたのであろうかという疑問から生じる。森林全般で以前の林業政策の適用の範囲も限られ、森林全般を統計的数字で把握しても、各所で直面する実態からは、林業経営の実現を見出すことはできなかった。それから、森林機能性重視に転換しても、森林全般の状況が変わったように感じられない。
 災害が発生し、治山事業が森林の重要な柱であるされても、全般に災害の危険性がどれだけ除去されたかは、不確かなのではないだろう。様々な機能を包含して森林が存在しているのだから、部分的な機能をを強調するのではなく、常に多様な機能全般の発揮の一部として位置づけるべきではないだろう。
 現条例に示された森林の7つの機能は、それぞれの対処が並列的に進められていて、総合化されていないことが大きな問題である。森林が温暖化防止の機能を発揮するとして、この機能を強化する議論も、果たして森林がその機能をどのように持つのかの議論に終始し、その機能だけを発揮させようとすれば、森林がどのようになるのかから起こる問題が考えら無くなったのではないだろうか。貯水機能の発揮からは水源税の設定が問題となった時期があるが、その機能を増強するためにどれだけ資金が必要で、それを要求するものとしての税の設定という厳密さは示されなかった。
 現在、施行の森林税においては税の使途として、森林育成に適用されるのしても、森林育成効果が県民に還元するどのような機能を発揮するのかの目処を見ることはできない。やすらぎの場所を提供する生環林の事業にいたっては、停止状態であり、自然環境の保全は、野生鳥獣の生息はかえって、獣害問題として顕在化しているといえるのではないだろうか。
 森林を育てる技術者の育成として発足した林業教育機関も、その当初の目的が不鮮明となっているのではないか。これは技術者の職場となる林業政策を軽視した結果ではないだろうか。林業政策は山村地域の活性化とも関係している。

森林指針への意見
 提言としての意見が荒唐無稽な思いつきとなることは、議論を混乱させるばかりとなるので避けなくてはならないことである。
 要点として、森林の現状を分析し、その現状を生かして、森林づくりをはかるべきである。人工林が大きな比重を占めている現状からは、森林の環境と経済の面から林業政策との関係を無視することはできない。機能発揮のための森林モデルの提示とともに、現状からの移行、個々の機能を総合化した森林モデルへの過程と関係のモデルを提示すべきであろう。
 森林づくりの起動力として、林地所有者の育林意欲がある。その意欲を喚起する条件として、育林の目的となる木材価格、育林の負担軽減となる補助金や委託できる林業技術者への信頼があるだろう。林地所有者の意欲が持続するには、林業経営が成立し、木材収穫と森林育成が同時に行われることが必要となるだろう。実際に森林経営の成立は大規模な林地所有者による微々たる存在である。零細な所有者が共同した林業経営体の可能性があり、集落や地域単位の共同関係の進展が見られることは期待されることである。しかし、森林育成に意欲を失った所有者に意欲を喚起することが困難であることは想像に難くなく、林地の放棄の拡大も心配されている。農業への新規参入者が見られるように、森林経営への新規参入者を導入することも必要となると考える。
 林業経営の成立のためには、木材生産の採算が引き合うことが大切である。そのためには木材価格の上昇が必要とされるのだろうが、以前の市況の良かった時期で育林がどれだけ進行したかを考える必要がある。森林育成は、経済的な採算は条件の一つであるが、地域環境の保全、向上の必要に対する責任の意識の喚起が重要であり、林業経営から森林経営の目的を明確にする必要があると考える。森林税への県民の賛同は、林業への期待ではなく森林育成への期待であり、各地域の住民環境向上への期待であることを忘れてはならない、林業経営から森林経営へ重点を持つことが必要である。経営となる以上、利益が必要であるが、林業目的を基本として、それだけでない多様な利益を経済的に評価することが必要であり、森林経営者に利益を還元する方策を考える必要がある。
 現在の森林蓄積を活用した長伐期の高齢林育成、齢級配置の適正化、森林の多機能性などの目標は重要であるが、それを達成するための起動力あってのことであり、誘導のための目標である。また、こうした森林目標の達成には、高度な森林技術者が必要なるだろう。林業技術者の資質向上のために、技術者の優遇が条件である。森林づくりの持続のために、技術者教育、養成が必要であり、同時に、技術者の職場確保、拡大が必要である。林業技術者は、広い森林経営の観点に立って、創造的に森林育成に立ち向かう必要がある。
 県民に向けて、また、訪問客に向けて、森林育成の方向を提示し、合意を得るとともに、育成された森林を利用してもらうことは、その合意を実体化するものである。そうすれば、森林税、利用料金の負担も納得がえられるだろう。林業重視への回帰は場当たり的で、森林荒廃の再開の危険性がある。さらなる森林蓄積により、地域環境の充実、生活基盤の恒久的な確保を目指すべきだろう。

さいごに
 指針への提言であるのに、べき、べき、必要と多言して申し訳ないことである。先日、K氏の仕事ぶりと荒山林業への案内で多くの示唆が得られたのだが、森林づくりへの大きな期待とともに現実の深刻さが感じられ、現実的な提言が困難となった。