カツラの生育条件

はじめに
 中央アルプス、将棋頭の登山口が桂小場である。演習林の宿舎の敷地の大黒川に面した緩斜面にカツラの大木がある。大きく枝を広げた巨木で、樹下の夏の木陰は気持ちがよく、公開講座の野外講義の場所となったこともある。演習林で戦後、マキ材を索道で運送したので、木場という名前もそれに由来するのか、それ以前からだったか、確かではない。
 カツラを最初に見たのは、京都のパン屋に併設された喫茶店であったが、上からの光を透かして葉の明るい色が美しく、丸い葉も独特で、桂が苗字や名前につけられる理由も分かる気がした。しかし、街路樹や公園木として使われるようになると、うまく育たずに、葉が次第に枯れていく様は痛ましい。あの桂木場の雄大なカツラを見る限り、カツラにとって、残念でならない。

カツラの立地条件
 天然のトチノキが山地の川沿いに見られように、カツラも川沿いに立地するようである。S君の卒業論文南アルプスのシナノコザクラで川沿いの断崖にあるというので、渓谷を遡ったことがある。川は荒れており、土砂が川原を覆っていたが、広葉樹の樹林が山裾と川原の境に見られた。川原に突出して見られた数本がカツラであった。川原で明るくなった場所、しばらく土砂が安定している場所であるようだった。
 カツラが大木になるには、川原の堆積土砂は根を広げるのに適しているのだろう。また、樹冠を広げるには明るい場所が必要であるのだろう。川原によって他の樹種が侵入できないところが適して、成長が旺盛で、優勢となって、少しの川原の氾濫にも抗して生育できるようになるのであろうか。
 川沿いだけでなく、山地のどのような場所に見られるかを、確かめたことはないので、そんな経験に頼ることはできないが、トチノキなどとともに、カツラも切り出されて、天然の巨木を見出すことは困難となているのではないだろうか。
 緑化木として使われるために、苗圃で育てられたカツラを植栽するのに、自然条件と大きくかけ離れることは確かであり、まして、自然条件を知らずに、植栽すれば、失敗することが多くなるのも当然であるのだろう。

カツラ植栽木は何故、衰退するのだろう
 松本アルプス公園の再整備に、入口付近にカツラの木立?、並木?の植栽がある。昨年から目だって弱ってきたが、今年になって2、3本が枯死してしまった。枯れた場所は丘の上のような場所で、低い場所のカツラは元気で、その中間のカツラは弱っている。斜面の上部が枯れ、下部が生育しているという状態である。これだけ見れば、土壌の水分条件が湿の場所で生育が可能であることを示している。乾燥した場所の生育は困難ということであろう。これは、川原に自生する状態に適合している。
松本アルプス公園丘上のカツラ
丘下のカツラ、カツラの新緑2010年

 7〜8mの植栽木としては大木のカツラの生育は、山寺先生が述べるように、直根を切り、水平に伸びた側根も切り詰めているので困難であることは確かである。庭師の根鉢の技によっても、直根は失われ、深い水脈に到達することはできず、強い風に当たれば、葉からの蒸散が促進されて、当初の力を使い果たして枯れていったのであろう。植えた場所、植栽したカツラが大きすぎたのであろうか。
 松本の市街地の街路の各所の並木にカツラが多く使われている。植栽当初、夏季の乾燥でカツラが弱り、問題となったことがあり、造園会社で根の調査が行われた。その結果を十分に把握していないが、街路の並木の生育条件は、植え枡が小さく、雨水の浸透が限られ、土壌が乾燥するか、路盤によって地下水位が上昇するか、また、根の伸張が硬い土壌で制限されるかなど、非常に厳しいことは明らかである。植栽当初の水遣りによって、その時期を過ぎてからは、問題とされなくなったので、カツラの成長力が困難な条件に勝ったのであろう。しかし、毎年、剪定され、植栽した当初から大きさはあまり変化がないように感じられる。

カツラの緑陰
 やさしいカツラの緑陰が、市街や公園にあることは望ましい。しかし、期待通りのカツラの緑陰は未だ実現しているとはいえない。適合する場所、湿潤で広々として日当たりの良い場所が与えられないで植栽されるからである。自由に広がるカツラの樹形と豊かな緑は美しいが、自然の条件を見出し、それに適合した植栽と生育の長い年数によって実現できるものであろう。