アルプス公園の公園林施業

はじめに
 アルプス公園は1974年に開設された松本市の総合公園であり、当初の面積は約29.3haであった。2007年の市制百周年の記念事業を目標に公園拡張が計画され、40億の費用をかけて、72.7haの公園として再整備された。計画に当たって、拡張部は里山であった自然環境を重視した自然活用型公園整備として性格づけられた。計画から開園当初の問題点は、T先生が信州大学環境科学年報に報告されている。
 開園から4年を経過して、新たな問題が顕在化しているが、それは特に自然環境である森林に生じている。自然環境の重視が、自然保護に偏り、里山の森林は管理不足に陥ったためと考えられる。ニセアカシアやカラマツの過密な森林の倒木、アカマツ林の衰退と松枯れ病の蔓延、また、道路沿いや森林のギャップにおけるツル植物、帰化植物を中心とした雑草の繁茂であり、周辺の里山以上に荒廃した様相を呈している。
 里山として利用することによって成立していた森林や草地あるいは畑地が利用されなくなって放置され、自然回復が進んだ。公園の拡張区域に入れられ、所有者の手を離れ、自然保護の要求から、積極的に放置されることになって、自然遷移の進行よりは、森林の破壊的な様相を呈しているのは何故だろうか。確かに、公園区域周辺の里山も藪状態であることは確かであるから、周辺と公園内の森林は同様と言って良いのかもしれないが、公園区域のアカマツの美林が、衰退の兆しを示し、広葉樹林が暗い森林となっているのは、手を加える必要があったことを示している。

公園林施業の目的
 公園内の森林の持続のための手入れを公園林施業と言うことにする。本来、森林施業とすれば、木材生産などの経済的な利益のために行われる森林収穫と育成の交互の関係によって成立するものであろう。
 公園となって、経済的利益は目的から後退したが、公園とされる以前から、薪炭林利用や木材利用は低迷し、放置されていた。薪炭利用のための萌芽更新、木材利用のための植林は、その放置によって森林の過密化をもたらし、畑地などの放置は藪状態、ツル植物の繁茂をもたらした要因であろう。この森林の荒廃は、公園利用の環境としたは不適である。公園化されない山が、経済的利用の目的から手が入り、利用しやすい環境となっていることからすると、公園化は利用環境にマイナスであったということになる。
 公園林施業は、利用環境を良好な状態に保つための森林施業として成立するのであろうか。薪炭林であった放置林に、公園林施業を考える場合、二つの方向がある。薪炭林への復帰と自然林への移行である。薪炭林は皆伐を行い、萌芽更新によって森林循環をはかる。自然林は高木林に移行するように間伐、択伐を行う。結果的にどちらも、木材収穫を行う結果となる。公園林施業において、経済的利益を否定する必要は無く、積極的に肯定することが有利である。萌芽更新のための皆伐も小面積に分割して行い、30年周期で更新を図れば、薪炭林を再生させ、持続させることが出来る。高木林として成育させた場所を混在させれば、さらに森林の持続に有効であり、将来、大径木の収穫が可能となり、老齢木の収穫も必要性が生じる。これは、薪炭林と高木林を混在させた中林作業に該当する。これは公園内のクヌギ林に該当させることが出来るだろう。

公園林成立のための保育作業
 各種の放置林の現状改善は、放置状態から保育作業を復活させることを意味する。すなわち、つる切り、下刈り、枝打ち、除間伐などの作業を行うことである。最終的な育成は、収穫と植林を含む森林更新である。これらの作業を、現状に即して、いずれも実行しなくてはならない状態である。ツルの繁茂のためのツル除去、ニセアカシアの萌芽の藪のための下刈り、隣接木の成育障害となる枝打ち、過密な場所の除間伐は特に重要である。松枯れ病の蔓延しつつあるアカマツ林では、収穫による下層木による森林更新の促進を図らねばならない。また、これに加えて、倒木の除去である。
 しかし、保育作業は、植林から収穫までの森林育成過程に生じる作業であり、現状改善のための保育作業は変則的である。下刈りは植林後、植林木と競争する自然成育の樹木の抑制のための作業であり、枝打ちは、除伐と平行して、隣接木への支障とならないように、下層の枝を除去し、樹幹を下から無節の木材の収穫に支障ないものとするためであり、除伐、間伐は材の収穫とともに、密道調節による生育促進のためである。このように、森林生育に伴って、連続的に進行する作業といえる。これらの労力を出来るだけ減少する努力が必要であるだろう。

林相毎の施業方法
 アルプス公園内の森林の林相を概観すると、尾根部がアカマツを主とした林相であり、尾根に連続する山腹にカラマツが植林されている。特に公園の東側外縁部の山腹から山麓までニセアカシア林が多くを占めている。ニセアカシア、カラマツ林にはケヤキの混生が見られ、アカマツ林にはコナラが混生している。西側の山麓から山腹にクヌギの純林が見られるが、山腹の緩傾斜地、特にくぼ地は、畑などの跡地で、クルミなどの広葉樹の林となるが、クズなどの侵入で、荒廃した状態となっている。
 アカマツ林、コナラ林、ニセアカシア林、ケヤキ林、カラマツ林、クヌギ林、オニグルミ林と区分して、施業方法を検討してみよう。アカマツ林とコナラ林、ニセアカシア林とケヤキ林は、施業によって森林の遷移として関連づけられるので、合わせて述べることが出来るだろう。
 アカマツ林とコナラ林の施業として、アカマツ林は尾根の適地を占めているが、高齢となり、また、松枯れ病の蔓延で、維持は困難となっている。コナラ林への更新を促進し、コナラに他の広葉樹を混生した林に導くことが可能性として考えられる。まず、アカマツ林の強度な間伐が必要であり、生育の見込めるアカマツを群として残しながら、画伐状の伐採跡地に、下層の広葉樹への更新をはかるとよいだろう。また、既に倒木などで生じたギャップとそこに生育したコナラの枝などの整理とギャップに生じたツル植物の繁茂を除去し、更新樹の生育を期待する。アカマツ伐採地の区域が広い場合には、アカマツの生育が期待できる可能性もある。施業の結果できる森林は、アカマツの高齢の群に、若い広葉樹が混在し、コナラの大木が点在する状態となることが考えられる。そこに、アカマツの若い樹群が生じていれば、アカマツ混生の可能性が生じるが、そうでなければ、高齢アカマツの群が衰退して、広葉樹林で更新していくことになるだろう。
 ニセアカシア林とケヤキ林の施業としては、ニセアカシアの高齢林にケヤキが侵入し、ニセアカシアが倒木などで、消失するとケヤキ林への移行が進行するという過程を見出すことができる。ケヤキが侵入してこない場合はニセアカシアが再生し、ニセアカシア林として持続することになる。ニセアカシアの幼齢林の状態は、とげのある萌芽の密生する藪となり、手入れが困難となる。こうした幼齢林の藪は刈り払って萌芽の更新を抑制するとともに、ケヤキあるいはクルミなどの広葉樹を植林することも必要であるだろう。若齢のニセアカシア林は純林となり、密生する。強度の間伐を行う必要があるが、伐採した株から萌芽が生じて藪となるので、強度の間伐を避ける必要もある。弱度の間伐地と強度の間伐地を組み合わせ、強度の間伐地は、ケヤキなどの植林を行い、混生状態を作ることが望ましい。ニセアカシアも材として有用であり、その沢山の花は美しく、養蜂に役立つということである。ニセアカシアケヤキの混生林か、ケヤキ林への移行が、施業の結果考えられる。
 カラマツ林の施業としては、過密であり、枯死木が生じている。高齢林になっており、風倒の危険性が生じている。強度の間伐で劣勢木から除去して、巨木で疎なカラマツ林を目指す。下層にコナラなどの広葉樹の生育を期待する。ササの繁茂は更新樹の生育を抑制するので、下層の広葉樹によってササを抑制する条件を確保することも配慮しなくてはならない。カラマツ林は現在の高齢林が枯損していく団塊になっても、植林しない限り、持続できず、樹種転換が進行することになる。コナラを中心とした広葉樹林への移行が想定され、カラマツの巨木が点在する状況となるだろう。
 クヌギ林は、西斜面山麓まで広がり、山麓の住居の防災に配慮する必要がある。その点で、過密状態を放置することができず、また、皆伐による更新を避けなくてはならない。上記のように、中林作業によって、皆伐による更新と、高齢林による巨木の育成によって森林を更新させながら、持続する方法が考えられる。
 上記の施業方法は単なる想定であるから、現地の状況と作業進行に伴う生育状態を常に観察して、試行錯誤の作業となる。

森林施業推進のための経済効果と公園林育成