山地と海岸の交流

はじめに
 災害の跡の姿に、亡くなった方々、被害を受けた方々に言葉にならない悲しみを感じる。自然の災害の猛威に、自然がどれだけ人々を守ってくれているのか、の信頼が揺らいでしまう。自然の恵みと災害の被害は裏腹の関係にあったのだろうか、人間は自然から騙されているのだろうかとも疑いたくたくなる。しかし、天や海を恨むことが出来ないとすると、人間が愚かであったのだろうか。自然に支配された時代には、こうして自然の前にひれ伏すより仕方が無かった。現代文明においても、予測のつかない大災害を前にして、原始や古代の人々と変わらないのであろうか。予測し、計画的対処を進める専門家や行政の努力も、予測が外れては、かえって、災害を大きくすることになってしまう。人間の叡智もこの程度のものでしかないのが残念である。
 今回、行ってみたのは住田町と陸前高田市とであったが、山地の町と海岸の町とのつながりを感じた。住田町で地震の被害は見出せなかったが、仮設住宅の建設を進めていたからである。普段は海岸に開け、海の幸の豊かな町と山地の産物の得られる山地の町との交流が続いていたのであろうか。川沿いに山地から海岸に下る道は、交流のためであり、その谷は、自然的な山地と海岸との関係を示している。

山地から海岸への地形形成
 居住していた天竜川上流域から下流に下ったことがある。天竜川は、上流域の中央、南アルプスの山地からの土砂を流出して、水害の危険性がある。しかし、その土砂は長年の堆積で盆地を形成し、下流域には平野を構成している。太平洋に面した河口では、川は波に逆流し、土砂の堆積地は湿地帯を形成している。海に流出した土砂は波に打ち寄せられて、長い砂丘と浜辺を作り出している。
 山地と海岸の地形は、雨水の川への流出と海の波との賜物である。山地、盆地や平野の河岸、平野の面する海岸は、激しい地形形成にさらされている。そこに居住する人々には、災害の危険が生じてしまう。

森林の生育
 森林は安定した地形に形成され、ある程度、地形を安定させるとともに、破壊されても再生する。平地の森林は、平地が土地利用されることによって森林が失われる。災害の危険は、土地利用を制限して、森林を残すことになる。急傾斜地、河岸や海岸には、森林が成立するが、また、同時に、森林が破壊され、再生する場所である。防災施設を設置して居住域を拡大すれば、森林を減少させることになる。山地は森林に恵まれ、平野は土地利用が広く展開する。土地利用と森林の持続の関係は、自然に対処した居住域の展開を示している。

産業の交流
 上流域は山地が多く、下流域には平地が多く、海に接することになる。山地を生かした畑作や果樹園、林業、平野に広がる水田、海岸の漁業の産物は、地域の産業となり、上下流域の経済交流を生み出す。また、労働力の交流を生み出す。こうした地域経済を基盤として、経済の拡大が行われ、拡大した経済が地域内交流を衰退させる。しかし、地域経済の土台が自然条件に依拠する限り、地域交流はわずかでも維持されるのであろう。災害の復旧に、山地と海岸の地域交流の実体を垣間見ることは、心強さを感じさせる。