リニアによる中央新幹線答申案へのパブリックコメント

はじめに
 5月5日までに中央新幹線小委員会答申案(超伝導リニアによる中央新幹線)にパブリックコメントが求められている。答申案を何日も前から眺めているが、何故、現在、莫大な費用が「かかる中央新幹線への着手が必要なのか?何故、中央新幹線はリニアでなくてはならないのか?また、中央新幹線のルートが南アルプスを貫くルートでなくてはならないのか?中央新幹線小委員会からは何も見えてこないのである。いずれも、決定的に結論付けるような論拠が見られない。こうした、あいまいな論議にコメントができるのであろうか。9兆円から10兆円の建設費の事業に対して、委員の切迫した議論が感じられないで、パブリックコメントを募集する姿勢もおざなりである。パブリックコメントは委員でないために議論に加われなかった一般の人々に、議論に加わることを促すものではないのか。議論に直接参加する委員はその一般人を代弁する責任があるはずではないか。
 答申案の中に多くの付帯意見がある。この付帯意見は答申案の中に盛り込まれてはいない点は、議論の不完全さを示していると判断され、これは答申案の欠陥である点で、未だ、答申案は出されるべきではないことを示している。付帯意見とされた委員は、満足できない点と考える。少数の委員会で、対立した意見も合意に達するまで、準備が出来てない事項であれば、準備が出来るまで、結論は出ないはずである。

現時点で答申案を提出できるのか?
 答申案とはじめにとむすびに大震災に言及している。おそらく、答申案の結論を出したのが18回の委員会であるので、17回までの議論にこの言及が加えられたのであろう。大震災への言及は、リニアと長大トンネルの防災上の対処の重要性が確認されたとされている。莫大な資金の獲得が復興計画に譲るべき、原子力発電所の事故に、多大な電力消費を控えるべき点、あるいは電力料金の上昇が生じていることへの対処が示されていない。
 少なくとも、復興計画が立てられて、見通しが生じるまで、結論を延ばすべきだと判断する。

事業主体
 中央新幹線三大都市圏を高速で結合させることを目的としている。東海新幹線が全国高速鉄道網の一環となっている点で、相違しているが、東海新幹線の二重化によって、旅客層の分担、災害対策、大規模改修での代替路線に有用としている。また、JR東海が営業主体となり、採算の採れる事業として担当しようとしている。そのため、費用は少ないが、営業利益の生じない在来新幹線ではなく、費用が大きくても利益の上がるリニアを採用することにされている。
 いずれにしても、中央新幹線と東海新幹線は、大都市圏を連絡して、競争関係となることは間違いがない。人口が減少し、乗客数が減少しては、共倒れとなる可能性もある。付帯意見の中には、2027年までに中京圏2045年に大阪までの完成予定を一気に大阪までの計画としなければ、採算が合わなくなる事を指摘している。これは、リニアによるものである。単に、東京ー名古屋間の二重化であれば、在来型で行い、大阪までの必要はなくなり、建設費は3分の1ですむことになる。経営的に考えるなら、投資額を少なく、利益を大きくする判断が必要ではないだろうか?リニアによる新技術の開発は重要であるが、一民間会社が考えることではなく、国の問題ではないだろうか。
 建設費を負債として利益によって弁済する試算がなされているが、建設費には利子が含まれておらず、予定した工事費の増大、工事が困難となればさらに増大する可能性が大となる。また、営業収入が予定通りでなければ、一気に負債が増大し、赤字経営となる。その危険を民間会社が負えるとは考えられない。そのための、予備的な対処はなにがあるのか。結局、国の援助に頼ることになるのではないだろうか?事業主体とならない国が、そうした援助を進める必要はないと考える。もし、援助せざるをえないのであれば、計画自体に国が参画していないのは矛盾している。

中央新幹線のルートが南アルプスであることは困る。
 中央新幹線は大都市圏を連絡することが主な目的である点で、通過地域にはメリットは少なく、通過の工事による自然破壊によって、被害を受けるばかりである。大都市から地域への流動は観光が目的となる以外は考えられない。その観光対象が破壊されるとしたら、全く、地域は被害を受けるばかりである。すくなくとも、環境破壊が生じないように、細心の注意が払われねばならないが、法的に標準化された環境調査で、この答申案が出されている。環境アセスメント、住民合意は得られたうえの答申であるのだろうか。伊那谷ルートと南アルプスルートが対比され、距離の短い南アルプス案が答申に採用されている。南アルプス案で、トンネル出口と考えられる大鹿村の住民への影響は考えられているのであろうか。環境調査は、基準を満たすだけではなく、住民への影響がどうであるかを委員会で検討したのであろうか。
 南アルプスは国立公園であり、知床と並ぶ特徴的な自然環境を保持しており、地元市町村では世界遺産登録への運動を展開中である。自然の価値は未知な要素を含んでいるだけに、将来にわたって増大するものである。そのために、永続するように、保全しなくてはならない。急峻な地形がそうした自然環境を保ってきたのである。
 ここに長大なトンネルを計画することは無謀と言わざるを得ない。トンネル工事の最難度の評価は自然の厳しさの一端を示しているが、これが、計画通り完了できるかは予測できないのではないだろうか?また、山間地に生じる大規模な自然破壊は、二次的な災害要因ともなるだろう。こうした事態は避けなくてはならない。