コナラ林の理解

はじめに
 ススキ草原からアカマツ林へアカマツ林からコナラ林への遷移へと、戦後の山地利用の衰退とともに、森林へ遷移が進んできたことは、実感されることである。自分の故郷ばかりでなく、全国各地に同じ変化が生じていることは、単なる自然の変化としては見過ごせないような環境変化に注意する必要も感じている。こうした自然の変化ばかりでなく、奥地林の開発による皆伐跡地の森林回復、薪炭林などの利用されなくなった山地への植林による人工林の生育と放置などの自然遷移も大きな環境変化である。
 コナラ・クヌギ林は薪炭林として利用して成立している場合と遷移によってコナラ林になっている場合があると考えられるが、戦後の放置と成立の点では、以降の自然変化で現在、50〜60年生の森林が多くなっている点から1960年代からの放置によることが判断される。こうしたコナラ林が、全国的にどのような相違があるのかを、鈴木伸一「日本におけるコナラ林の群落体系」2001、植生学会誌18巻に論じられている。
 結果だけを引用させていただくと、9群集があり、分布ではヤブツバキ域からブナクラス域にわたって5型に区分されて分布していることを結論している。長野県北部に独自なⅢ型が分布している。中央部はⅣ型、西部がⅡ型の分布する区域に属している。日本の西半はⅡ型で、海岸よりにⅠ型が見られる。東半は日本海側にⅤ型が、太平洋側にⅣ型が分布している、長野県はⅡ型とⅣ型の境界にあるといえる。また、Ⅳ型とⅤ型の中間にあるⅢ型が分布している。日本の西半がヤブツバキ域、東半がブナクラス域ということであろう。ヤブツバキ域ではコナラ林から照葉樹林への遷移が問題となるのだろう。

コナラ林の構成と成立要因
 コナラ林は途中相の森林であり、人為的に管理されて維持される点で、その構成種は多様であり、鈴木の論文を引用すれば、「草原生、林縁生植物社会の各要素が混生し、種組成的に多様である。したがって本来の自然林と比較して出現種数はきわめて多く、平均49種、稀に110種をこえる植分もみられる。」草原から潅木(林縁)、アカマツ林、コナラ林、自然林(シイ・カシ林あるいはブナ林)の遷移過程あるいは退行過程を仮定すれば、多様な種による構成は当然、生じることなのであろう。
 コナラ林が薪炭林として管理されることは、退行遷移を繰り返して、コナラ林が維持されることになり、自然林への遷移を後退させ、草原生、潅木、アカマツ林への退行と回復を常時、繰り返すことになる。
 しかし、放置されたコナラ林は自然林への遷移が進行するのであろうか。これは、仮定の推論であるが、放置されたコナラが成長し高木となり、株立により、過密な樹冠が競合し、個々の株の樹冠が上部に枯れ上がり、林床が暗くなり、中低木を枯死させ、ネザサ類の繁茂となる可能性がある。そうなると、自然林への移行は難しく、コナラ林の更新も難しくなる。コナラの枯死したギャップはネザサを一層、繁茂させることになる。株の整理をしないままの放置は、こうした退行を一層早めることになるのではないだろうか。以上の仮定は放置されたコナラ薪炭林の実地の現状から、確認していく必要がある。
 幹が株立しないコナラ林を想定することもできる。競争して成長し、大きな樹冠を持つ高木の森林が成立する可能性もある。アカマツ林の衰退とともに、下層のコナラが成長し、コナラ林を成立させた例を見出したことがあるが、これは自然的な遷移といえると考えた。コナラの成長とともに林冠が閉鎖し、厚い樹冠によって、暗くなり、コケ、シダの林床が生じる可能性がある。モミなどが侵入し、自然林への遷移に移行する可能性を見いだせるかもしれない。しかし、ネザサ類の侵入はその移行を困難とするだろう。