原生林の恒続

はじめに
 春日山原生林、伊勢神宮の境内林、南アルプスの亜高山帯針葉樹林、野幌森林公園の原生林、知床の原生林は、正確には原生林ではないにしても、原生林に近い森林であるとは言えるだろう。これらの森林を見てきて、原生林とは何かと考えてみた。

原生林の構造と恒続
 こうした森林には300年生に近い巨木を有している点で共通しており、これに後続する樹齢の木々が共存している。また、林床には稚樹の芽生えが見られ、土壌の肥沃さを示している。一方で多く新旧、大小の倒木が見られる。大きな倒木の上空はギャップとなって、下層に日照が射し込み、林床の下草を繁茂させ、下層木を成長させる。
 原生林は森林の終局相と言われ、人為の攪乱が及ぼされない森林と言われるが、自然の攪乱があり、森林の遷移過程の段階を含くむ森林といえる。豊かな土壌は稚樹の生育を促し、高密度な稚樹の生育に伴う絶えざる競争関係を成立させている。競争に打ち勝って壮大な巨木が成立し、多くの枯死木や落枝、落葉は昆虫やミミズ、キノコ、微生物などによって土壌に還元され、厚い土壌層を形成し、水分を保留している。そこに、大小の動物が生活し、多様な生物相を持続させる。しかし、急峻な地形で自然の攪乱は土壌層に及ぶこともまれではなく、地表の森林を流亡させ、森林は遷移の初期段階に戻される。
 広大な森林に含まれる様々な場所と林相の変化は、原生林の様相を複雑極まりないものとしている。しかし、林床の微小な変化と高木層の変化が関連して森林構造の単位を作り出し、それらの林分単位が終局相に還元する循環的変化で連鎖し、原生林を恒続させている。これは松川氏がヒバ天然林で見出したことである。

原生林の林相
 森林は気候帯によって分布が相違している。日本には暖帯林(照葉樹林)、温帯林、寒帯林(亜高山帯林)が成立しており、一つの気候帯の森林でも樹種が多様である。原生林の構造とその循環的恒続過程は林相によって相違してくるだろう。松川氏の知見は温帯林のブナとヒバによって構成された天然林によって得られた。この森林を構成する樹種が高木層を形成し、その林床に同じ樹種の更新樹を生育させることができるものであることが、森林を恒続させる条件であったのであろう。