駒ヶ根市の景観特徴

はじめに
 地方都市の多くが、全国的な大規模店の展開、建物材料の流通、プレハブ住宅などの規格化、生活様式の画一化によって、地域の個性を喪失させている。市街の拡散は景観の地形的特徴とともに歴史的に形成された生活環境の特徴を覆い隠してしまっている。地域住民による環境保全の運動はこうした無個性な市街化に対する抵抗といえるのかもしれない。現代文明生活の中で生かされている環境から、よりよく生きるための環境創造への転換とも言える。
 駒ヶ根市の景観基本計画の検討が進められ、市内各地区の景観特徴の発揮が取り上げられている。こうした各地域の景観形成は、一見個々の地域で独自の運動のように見えるが、共通した市街化への対処であり、景観形成の方法に共通点が多くなっている。こうした点で、個々の運動の結果が平板な景観形成となり、景観特徴の回復とはならず、全体景観の混乱要素となる可能性もあるかもしれない。
 それゆえに地域の個性となる景観の地形的特徴と歴史的に形成された生活環境の特徴に回帰して、近代的な地域発展をもたらした住民生活の過程をたどることが必要となるだろう。
 明治以前には、小さな集落の集合した完結した地域に外部に連絡する街道と宿場町が存在していた。明治以降の近代的な地域発展とは、地域的な産業開発と近代的都市の形成である。外部に開放された経済が展開し、幹線となる交通網が整備されると、地域の中核として都市が発展していった。農村は田園の広がりを持ち、都市は田園地域の中心の機能を発揮するようになった。

位置と区域
 駒ヶ根市は、中央アルプス南アルプスの大渓谷−天竜川上流の伊那谷の中央に位置し、中央アルプス山麓台地と伊那山脈の盆地に広がる安定した農地と台地の中心の帯状市街によって形成されている。天竜川の両側に広がり、東は伊那山脈の最高峰戸倉山が境界となり、西は中央アルプスの最高峰駒ヶ岳へと連続している。東の盆地は山地によって、西の台地は天竜川の支流、大田切川と中田切川に区切られている。
 山地によって涵養された水源は、盆地と台地を潤し、豊かな農村地域を形成している。一方、交通路は天竜川と山地、支流に阻まれて、近代までは、地域を閉鎖的な状態としてきた。街道整備、飯田線の建設、道路整備、高速道路の建設はこれらの障壁を消失させたといえる。 

田園都市
 駒ヶ根市伊那谷の3市の一つであり、中央に位置するが、最小の人口規模であり、程よい閉鎖と開放によって地域のまとまりが最も良く、安全で豊かな自然環境に広がる農村地域とその中核となる宿場の歴史を受け継ぐ市街によって形成されている。住民生活は都市と農村が連携した快適な環境を育んでおり、近代都市の理想とする田園都市を実現している。より以上に、天恵の自然環境に恵まれ、水清く、農林業による産物豊かな地域となっている、
 養蚕業から製糸工業の発展があり、さらに精密工業の発展につながった。山岳景観と渓谷、山麓の自然環境、田園環境は、観光資源となり、山岳と高原の観光地域を形成している。住民の休養環境は恵まれたものとなっている。
 一方、計画的な田園都市とは反する欠点も生じている。これは市街の高密化とともに田園地域への拡散であり、さらに、市街の空洞化、老朽化である。また、農林業の衰退が農林地の放棄を生み出し、地域の荒廃を生み出そうとしている。

景観基本計画の目標
 景観基本計画の主体は住民であり、景観形成は快適な生活環境形成の一端の活動である。景観計画は各地域の生活環境の改善であるとともに、駒ヶ根市全体の個性的景観を顕在化させ、住民の共同意識を培養するものといえる。
 そこで、全体の目標は、天竜川上流の伊那谷の中央に位置し、中央アルプス山麓台地と伊那山脈の盆地に広がる、安全で豊かな自然環境に広がる農村地域とその中核となる宿場の歴史を受け継ぐ市街によって形成されている。住民生活は都市と農村が連携した快適な環境を育んでおり、近代都市の理想とする田園都市に近似し、天恵の自然環境に恵まれ、水清く、農林業による産物豊かな地域であり、近代的な精密工業が発展し、山岳と高原の観光地域によって住民の休養環境は恵まれたものとなっている。これらの特質を生かすことが景観計画の目標となる。