景観計画における農地と森林の役割

はじめに
 景観は自然環境を利用して生活する人間の生活環境の広がりによって成立している。生活環境の広がりに対して残された自然環境が対置された地表の状態が景観を形成している。生活環境の形成と自然環境の保全の両立が景観計画を成立させることになる。

都市景観
 都市は人々の集中によって生まれる人工環境であり、経済活動の中心となる場所を有して成立し、多数の居住空間ととともに多様な都市機能のための空間によって構成されている。都市が住民自治によって統制されることによって都市空間は計画的に形成されるが、自由経済の発展による人口集中と資本の活動は、無計画な拡大をもたらし、都市景観は無秩序な混乱がもたらされる。

農村景観
 農村は農業生産のための集落単位によって構成され、土地利用のために自然環境を開発する。自然環境は土地利用の制約として残され、利用される。開発されて成立した土地利用によって農地景観が成立し、自然環境が残され、利用された場所に森林景観が成立し、利用されない場所は自然景観が残される。農村集落景観は、集落を中心とした生活環境と自然環境の小単位の完結した対置を形成している。農村景観の広がりは、集落景観の集合によって構成されているが、集落の立地条件の相違が、農村景観の広い自然環境の相違に対応している。

都市景観と農村景観の接点
 都市の拡大は、農村地域の開発によって行われ、都市景観が農村景観と混在する近郊地域を作り出す。農村景観の秩序が都市景観の進出によって破壊され、住民は都市環境の秩序を享受することができず、農村環境の利点を享受できずに、弊害に悩まされる。都市環境の秩序の成立と残存する農村環境の利点を活用するために、計画的整備が必要であり、生活空間における景観計画の可能性がある地域である。

景観計画における農地と森林
 郊外居住地からの景観は、都市景観と農村景観、開発による新たな景観と残された古い景観が混在して変化に富んでいる。前景に居住地の都市的景観があり、中景に農村景観があり、遠景に山地の自然景観を見出すことができる。中景の農村景観は都市的景観と自然景観を接合させる効果を持っている。都市的景観は農村の集落要素と混在して、人工的景観を構成する。農地要素は空間的広がり−眺望をもたらし、森林は人工景観の被覆と生活空間を取り囲む囲繞を作り出す。
 近郊の景観構成を持続的に維持するためには、都市計画による居住地域の整備と農村地域の存続を均衡させ、両者の交流をはかる必要がある。経済的交流として、地場農産物の販売と住民の農産物消費の場の可能性があり、環境的交流としては、農地、森林の緑地としての利用、整備である。文化的交流には新規住民の歴史的文化環境維持への参加である。
 以上のような計画課題は住民間の自然発生的な交流として生じていることが多い。しかし、その交流が安定していくには長期の時間を要するといえる。農地や森林は偶発的に残されるだけであり、都市の樹木保存、緑地確保に大きな効果を発揮するにも関わらず、居住環境を構成する要素として積極的に維持されるわけではない。

田園都市の景観
 田園都市の規模は、人口が数万人、その地区単位は小学校区が想定されている。都市の周囲の緑地帯は広い農村地域によって構成されている。都市の中心は公共施設、商店街が効率的に配置され、人々の憩う緑地に恵まれている。都市の外縁には工業地域があり、人々の職場を提供している。幹線交通は都市の外縁に接続し、都市内部は安全に保たれている。
 こうした田園都市は、地方小都市によって実現可能性が大きく、農地と森林の景観要素の効果を最大限に発揮し、周囲の自然景観に居住環境を接続する可能性があるといえる。