観光資源としての風景

はじめに
 観光旅行の動機は、見知らぬ地域を体験したいということであろうが、日常生活を離れてゆっくり過ごしたいという保養の魅力もある。見知らぬ土地の体験は探検であり、その体験を報告することで発見の栄誉があるだろう。しかし、探検旅行は苦難が伴う点で、観光旅行とは相違している。観光が労働の余暇による休養である点で、保養だけでなく、楽しみが含まれる。楽しみは登山やスキーやゴルフや海水浴やサーフィンと自然や施設によって多様に行われ、観光旅行に明確な目的が生じる。しかし、その目的は旅行生活の様々な要件の一部にすぎない。観光旅行の体験を様々な場面で構成されたドラマとして見ると、目的がただ一つではないことが明らかであり、出かける場所の魅力は多義なものである。

長野県の観光地域
 伊那谷の景観は天竜川の大渓谷と谷の両側に聳える山脈、平地に広がる農村地域で骨格が構成され、住民生活によって様々な変化が見られ、季節や気象による壮大な風景を演出している。しかし、伊那谷の観光地は駒ヶ根高原天竜峡など僅かなものである。ゴルフ場や別荘地の計画も行われたが、単独にしか実現せず、数も限られている。
 長野県には軽井沢や志賀高原を包含する上信越高原、北アルプスの登山、山麓のスキー場の地域、八ヶ岳から中信高原の登山、別荘地域などの観光地域が存在している。そこには、観光地域の風景が成立し、別荘地、ゴルフ場、スキー場、あるいは散策、登山の施設が自然環境や農村地域に展開している。観光が風景を作り出しているのである。
 現在の観光客の減少は、この観光の風景をも衰退させている。そこで、観光地の衰退によって、老朽化した風景が生じてくる。この変化は、観光化される以前の原風景への回帰ともなる。自然環境、農村景観が荒廃した観光施設の間に目立って、なぜか安心感を生じさせる。観光の風景は借り物であり、以前の真実の風景があったことに、安心が生まれたのであろうか?