50年まえの北海道ガイドブック

はじめに
 私が大学に入学したのが昭和35年だったから、今から50年前のことで、1960年日米安保改定が問題であった年で、高度経済成長のための所得倍増政策が開始された年だった。昨年、今年と北海道に出かけたが、学生の時代とは全く異なる北海道の様子であった。
 50年前の北海道と札幌は戦後開拓の姿が、開拓の建物の様子に刻まれていた。それは、戦後の開拓をさかのぼって、明治の開拓の姿に直接つながっているように感じられた。厳しくも豊かな北海道の自然に、開拓の様子は対応していた。当時の観光のイメージは、その自然をアイヌの人々の文化の目を通して得ようとするものだった。観光によって、アイヌの文化が見世物とされることに当時の批判的な論説があった。
 昭和35年に出版された「北海道の旅」というガイドブックを今手にしているが、その著者は明治35年生まれで、開拓を体験して育ったという更科源蔵によるものである。北海道の生活風景の厳しい写真が散りばめられて、5年間過ごした北海道が懐かしく思われた。北海道は旅するものであって、観光する地域ではなかったのだ。アイヌ文化の観光は、観光客のための単なる幻影に過ぎないものなのだろう。