コナラ林の森林空間と時間

はじめに
 長く過ごした場所で、森林の変化は著しいと感じるのは、歳をとったせいであろう。時代の変化と同じく、森林も変化しており、時代の変化が作用している。生駒には若い時から現在まで、年に1度も行かなかったときはない。若い時は昭和30年代であるので、半世紀にわたることになる。放置された林地の幼齢の林が、立派な森林に変わってもおかしくはない。
 しかし、50年の森林変化は、森林を構成する樹種の変化が大きい。最初のアカマツの禿山は、アカマツの森林とはならずに、混生したコナラ林へと転換し、現在、コナラ林から照葉樹林への転換の兆しが、下層植生に現れている。アカマツ林は密生した状態で自滅し、コナラ林も同様に密生して衰弱している。森林の変化は放置によって加速しているようである。たった50年で、社寺の境内にしかない数百年の原生林の兆しが見出されることは驚きであり、アカマツ林を期待したために、予測外れだったのである。これはまたコナラ林にも当てはまることなのであろう。
 何故、密生した森林ができるのか、これは林木が同齢のためであることが考えられる。とすれば、照葉樹林となっても同じ問題が生じて、安定しないだろう。さらなる破壊によってアカマツ林に戻り、時間を経ながら、多種異齢の天然林として安定した照葉樹林ができるのではないだろうか。

若草山ドライブウェイと春日山原生林
 若草山は小学校の遠足に出かけたことがあり、今でも多くの人が集まっている。東大寺のお水取りにも参列させてもらったことがあるが、その行事とともに、若草山の野焼きが行われる。その野焼きと鹿の食害によって美しい芝地が維持されている。
 先日、若草山の裏手の森林をドライブウェイ沿いに見てきた。かって見た若草山山頂のアカマツの幼木は大木となっており、コナラ林の中に疎らに生えているだけであった。コナラも相当の大木となっており、シイ、カシなどの照葉樹の大木が谷間に群生し、その接する場所ではコナラと混生していた。コナラ林の林縁部の下層は、ヤブツバキやソヨゴなどの低木類が繁茂していた。
 私は生態学者ではないのでわからないが、こうした森林の動態は定点観測の長年の観察によって判断されることであるのだろう。鹿の食害調査なのか、森林内に金網の囲いが設けられて、林床が保護され、その上の林冠にギャップが設けられて、下層の低木類が繁茂している状態を見かけた。林内に下層植生が希少なのは、鹿の食害と上層の閉鎖によって生じたことを示している。調査の結論を知りたいものである。

生駒山系のコナラ林景観
 生駒山系の奈良県側は山腹の傾斜が緩く、長い谷が入り込んで、その谷を遡って水田や畑地があり、集落が見られる。山林は谷に分断されているが、尾根から放置林が拡大しているようであり、それが山地を荒れた状態としている。山麓には忽然と大規模な住宅団地が切り開かれ、荒れた山林と対置している。
 生駒山系の大阪側は急傾斜で尾根部からは、一面の山林であり、ほとんどコナラ林となっている。開かれた所は、わずかな谷を伝って尾根の峠まで到達した農地と集落があるだけである。山麓は農地、集落、神社、住宅団地などの土地利用が森林に迫っている。