放置再生林の危険

はじめに
 松本近辺、公園内の森林でさえも、根返りによる倒木が目に付くようになった。これらの森林はニセアカシアが多いが、ケヤキなどでも見られないことではない。放置再生林自体は各所に見られ、広大な面積を占めていることが考えられる。里山が利用されなくなり、禿山や薪炭林が放置された森林、あるいは、天然林が薪炭利用のために皆伐されて再生した森林などである。拡大造林に植林も手入れされないままに放置されて、広葉樹林に代わってしまったところもある。こうした放置再生林には同じ倒木の危険が多いのではないだろうか。

中林作業への転換
 戦中、戦後に資源開発のために、里山から、さらに奥地の森林の開発が行われた。植林された場合もあるが、皆伐後、放置された森林も多いのだろう。中央アルプスの山腹のミズナラ再生林の取扱いが問題となったことがある。皆伐した多くの切り株から萌芽更新によって成林しているが、多くの幹によって密生した森林となり、林内が暗く、林床は一面のササとなっていた。横浜では薪炭林が萌芽更新の常態で放置されて、密生したまま一面に立ち枯れした状態を見たことがある。ツル類やミズキなどによる被圧のせいもあるだろうが、枯死の原因は幹の過密によるものと推定された。これと同様な状態が進行すると考えられ、また、ミズナラ林を再生するために、幹から数本づつ育った萌芽の幹を間伐することが必要と考えた。
 萌芽更新による薪炭林は低林作業と言われる。1本だけの幹にして高木林に導入することを進めたが、切り株自体が過密でもあるので、全部を皆伐する株、あるいは密生した状態でそのまま放置する株も同時に残した。最初の株は高木を育てるために、密生した株は群として自然枯死を推進し、ササを抑制しながら、更新したギャップが自然に生じることを期待するためである。また、同令林、一斉林の状態を異齢の多段林に改造するためであった。高木と低林とを共存させた中林作業というものがあるそうなので、中林作業に類した方法といえるだろう。
 ミズナラの伐採木はキノコのタネを打ち込み、市民が自由に採取できるように、林床の置かれている。今後の手入れで、また、そうした原木が採取できるだろう。また、原木が採取できることで、手入れが進む可能性もある。ミズナラ高木林の再生が進行していくのでないだろうか。森林の成立には長い時間がかかり、その間に手入れすることによって、高木林成立の補助をすることも必要である。

放置林倒木の原因
 放置された森林がどんな状態かによって倒木の原因は異なるだろう。まず、倒木の見られる森林は急傾斜地が多いが、必ずしも急傾斜とは限らない。森林が高齢であること、過密であることは共通している。根返りの株は根鉢が小さく、支持根があまり張っていないか、腐りが入っている場合があり、倒木も力学的に生じるのも当然である。樹種はニセアカシアを多く見かけるが、ニセアカシアの成長は早く、幹の肥大、樹高の上長成長も早い。過密で樹冠が狭まり、根も広がることができなければ、倒木となるのは当然なのであろう。逆に孤立木が樹冠を広げ、巨木となっている場合を見かけると、過密が原因であることは確かだろう。
 何故、過密となって生育するのか、は一斉林であるからである。同齢林で、同じ速度で成長し、日陰にも強い木である場合、高齢林で過密な状態となるだろう。もちろん、どんな日陰に強い木でも、幼齢林の生育の密度を高齢になるまで保持することはできないから、放置して高齢となるには、適度に自然間引きによる密度調節が進行していると考えられる。この自然間引きと日陰の耐性との関係が、樹種によって相違することが考えられる。シラカバ林などは、幼齢林の密度が若齢林まで、持続し、共倒れとなってしまう。個体の成長競争に差が生じることが自然間引きの条件となるが、シラカバ林ではそうした差が生じない程、個体の上長成長が盛んであるのだろう。 
 高齢林となって倒木の生じる樹種には、どんなものがあるだろうか。ほとんど等間隔に配置されたケヤキ林での倒木、カラマツ林の倒木は幹が細く、過密による肥大成長の阻害と根株の小ささがあるのだろう。自然間引きで生じる散発的な倒木はどんな高木類にもあるだろうから、競争の生じない一斉林の等間隔配置が問題と言えるかもしれない。