樹木空間の場所性

はじめに
 環境は人間であれ他の生物であれ、主体を中心にした外界の周囲であり、中心からの位置が場所である。主体自身が外界に向かった広がりを持ち、環境としての周囲に交流を持つが、その交流の範囲が場所の広がりとなる。交流の範囲がその主体の活動空間となり、活動空間によって主体の占有する場所が決まってくる。
 主体が動物である場合は活動空間の移動が生じ、場所が変転するのに対して、植物はその生育する場所が固定しており、場所の条件とその変化に対応できる種類が生育し、場所を占有する。それぞれ生息、生育できる環境を見出さなければ生存することはできない。

クヌギ林から
 森林空間の場所性を近くのクヌギ林で観察すると、林地の林木の配置がそれぞれの木の幹の位置から占有する樹冠の範囲が場所性ということになる。写真に二本のクヌギは近接しているために、一体となった樹冠を作りだしている。樹冠は球形の空間によって場所の広がりを有している。孤立木であっても同様に球形の樹冠をもったであろう。1本の木にとって、もう1本の隣接木は互いの樹冠の広がりに障害となりながら、一体化してしている。
 樹冠の空間を区分するならば、二本の木が近接して競合する空間、1本づつの木が生育するための空間、二本の木が共同した樹冠空間によって構成されているといえるだろう。樹冠が木の成長によって拡大していくが、これらの3空間が均衡しながら変化を遂げていくのであろう。二本の木は拮抗して、樹冠を均等に分け合うこともあるが、1方が優勢となれば、同じ空間の中で片方が劣勢にならざるを得なくなる。






 林内で四方に隣接木がある場合、森林全体の樹冠が連接して、一体となった林冠を作り出す。森林全体で隙間の無い林冠となった場合、閉鎖した林冠という。閉鎖した林冠の中で個々の林木の樹冠は入り組んだモザイク模様となる。年々の林木の成長とともに、林冠は上昇する。