林檎園の林床

はじめに
 先日、ドナルド・キーンさんの銀閣寺でのテレビ対談を拝見した。キーンさんは日本人がサクラをことのほか好むことを弘前に出かけたおりの花見の賑わいとともに、林檎園の花盛りには一顧だにしない人々の様子から説明していた。桜は花を楽しむだけに植栽されたものであろう。
 松本にも林檎園は多い。いつもの散歩は林檎園の中の道を通っている。確かに、現在のリンゴの樹形は矮性に仕立てられ、冬の木立は不気味に感じていた。しかし、林檎園で働いている人々の楽しそうな様子から、リンゴの実なる時期を待っていて、樹形は労働を軽減するためのものである点で、異形に合理性があることが理解できた。
 

リンゴ園の林床から
 リンゴ園の林床はリンゴの並木の間に広い空間を持っている。樹間を広くとってリンゴの実に栄養が行き渡るためとともに、摘果などの作業に好都合なためであろう。リンゴの木々の直下は藁の束を堆肥として大切にし、樹間の広い空間は草地となって草刈機で刈払うので滑らかな草地が維持され、春にはタンポポの黄色の花が散りばめらている。この林床の様子からもリンゴの木がどんなに大切にされているかがわかる。
 林檎園が観賞されるかどうかはわからないが、合理的な生産空間によってリンゴの結実を待つ生産者の大きな期待が込められていることはわkる。リンゴの可憐な花も花期は短く、果樹園を埋め尽くす花の群れは一瞬の楽しみかもしれない。しかし、たわわなリンゴの実は長く、一気に収穫されて冬に向かうのである。