南アルプスの景観の価値

はじめに
 南アルプスの山地は赤石山脈と呼ばれ、伊那谷中央アルプス山麓の各所から一望される。しかし、南アルプスと伊那山脈の中央構造線の渓谷からは、山間の中でかいま見る山岳の一部を望見するのみである。山地は山梨県静岡県に広がっているが、南アルプスの連続した眺望を得る場所はほとんどない。この広大な山塊の実体はなかなかとらえることは難しい。
 こうした南アルプスの全貌が意識されるようになったのは、昭和39年の国立公園の指定によるものと言えるだろう。国立公園指定の要件には当時、アメリカの国立公園におけるロードレスエリアの保存の考えが作用していると考えられ、知床とともに指定された。山地の険しい地形、奥地の自然環境が、交通を困難とし、原生林の自然を持続させていることが、役立ったのである。