中庭の成長と終末

はじめに
 中庭に黒いハチのような虫が棲息し、毎年、数日は飛び交っている。今年もそろそろの時期となっている。5月には雨が降るたびに小さなミミズが大群となって植え桝からはい出してくる。住民はその除去に追われるようになった。また、コウヤマキが成長し、樹下を暗くして、草本層が育たず裸地となるために、雨で土がはね、風で室内に吹き込む。こうした苦情が一階の住民からわき起こった。
 管理組合の会長から中庭の植栽の除去と砂利による石庭化に関する意見の回覧が回ってきた。しばらくして、下の階の住人から反対への意見への賛同を求める電話があった。中庭の草木の生育を楽しんでいるのに、残念であること、中庭はマンションの品格を保持させるものであること、植栽除去の理由で生物の棲息は植栽にとって当然のことであり、共存すればよいという意見であった。その人は持病があり、その電話の数日後に亡くなってしまった。誰も反対する人もいなくなった。

人の育てる中庭
 中庭はマンションの共有空間であり、各戸の玄関と通路がその中庭に面している。子供たちの遊び場、住人の立ち話の場所ともなり、明かりや風、雨が差し込み、吹き込む空間である。しかし、多くの住民にとって中庭への関心はそれぞれ相違しており、その相違が住民間の対立を生む事もあるようである。
 中庭への植栽は、以前の会長の意向でマンションの表玄関として整備しようとして数年前に行われたものである。

自然に生育する植物
自然空間のはかなさ