ぶどう園の光と影

はじめに
 ぶどう園の農家の方から、ブドウの栽培について話を聞いたことがある。一枝にブドウの房は一つつけるのだという。だから、枝となる芽を残して剪定して、その枝の葉に当たる光のための空間を確保しているのだという。光の当たる空間ー平面を計算している園芸の世界と重層して枝葉が重なり合う自然の樹木とは大きな隔たりがある。自然の世界で競争関係にある枝葉を栽培のために最大の日当たりを確保するところに園芸技術の極があるのだろう。ヤマブドウを見つけても実をつけたツルは少ない。

 ぶどう園に計算どおりの芽吹きが生じ、小さな実をもうつけている。

影と光
 ぶどうのつるの延び方は、葉を平面に広げるために、幹から広がる系統的な線を描いている。その線に葉が広がるにつれて、地面に影が落ちる。葉が光を奪い、地面には光を失って、光のある場所との対比によって、唐草模様が描かれている。影には葉の立体感は無く、ただ、形だけが現れている。しかし、その影こそ上空で葉が光によって活動している証なのである。

 光に照らされたぶどうの樹冠が平面的に広がり、光を余すところ無く受けるようになるのは今しばらくである。やがて、ぶどう園は濃い緑の平原となり、その下部が居心地の良い緑陰となって、ぶどうの房が実っていくのである。葉の色づく頃に、ぶどうを摘む人に話しかけ、光の恵みとなった収穫を祝ってあげたい。