今田先生「森林美学」講義録第4回

今田先生講義録1964 北海道大学農学部林学科

11月4日

 

Der Aesthetische Wert der Horzarten樹木の美的価値

 

 森林の風致的効果は樹種が異なり,また,それぞれの樹木も単木を成す場合と森林を成す場合,また,集団の大きさによっても,それぞれ特殊なものを持っている。ある決まった樹種,例えばマツとかサクラとかをとくに風致的に優れたものと考え易いが,全ての樹種が場所を換えれば,風致的であることを忘れてはならない。特殊な樹種,いわゆる風致木だけを考えることは,ことに自然公園のように自然の風致に重きを置く場合は避けなくてはならない。自然風景ではあどの樹種もその郷土において最も自然であり,・・・風土に適せず,健全な生育を行わない場合は自然では美しいと感じられない。それゆえ,Felberの言っているように美観の点からも立地の適合を主張するものは少なくない。また,与えられた自然の条件に適合する樹種はただ一つに限られてないからそこに風致的により望ましい樹種を選択する可能性がある。しかし,また健全に育つことができれば,必ずしも郷土木に限らず,美しい景観が得られる。郷土以外の樹種,とくに外国樹の風致的効果については様々な説がある。これらの木は自然風景として適当でない場合が少なくない。そこで,Von Salischや恒続林論者の中には外国樹を風致上退けている。また,珍しいことと美しいことは別である。しかしまた,珍しいため注意をひくから,風致的に特殊な扱い方があるのも確かである。人工的な園芸品種についても同じことが考えられる。

 

樹木に外観 樹形は遠くから見ると特徴のある形をしている。ポプラは円筒形,モミ,トウヒは円錐形に近く,その他,傘型,楕円形,卵型のmぽのも少なくない。また,マツのようにバランスのある不規則な形を」しているものがある。このような形を見せるのが樹木の外観outlineで樹木美の一要素である。また,この外観にはリズム感を伴っている。針葉樹は一般に上に向くリズムがある。とくにモミ,トウヒに強く現れている。これに対して広葉樹は下向きのリズム感がある。樹木の外観は刈り込みを行い,人工的な形を作ることがある。これらは都市公園や個人の庭などでは似合うが,自然風景の中では不自然になる。それから,形の整っている樹木は左右対称の傾向を持ち,不整形のものは自然的にバランスがとれている。但し,整形の木も老齢になると不整形になりやすいが,最後までほとんど形を崩さないものは壮大さや威厳の感じがある。開放地の木は枝下が低く,膨らみがあってボリュームがある。密林の中の木は樹冠の位置が高く,枝張りが少なく軽快になる。

枝ぶり  多くの針葉樹のように幹が直立している木も枝は曲線になることがあり,」樹種により特有な形を示す。例えばモミ,トウヒは下枝が緩やかな曲線を描き,上に行くに従って上に伸びる直線になり,それが美観になる。

分枝の角度 木により異なり,ポプラのように狭いものからカシワのように直角に近いmonogある。また,枝の付き方も疎なものから密なもの,細いものから太いものがあり,それぞれ違った美しさを持っている。

 針葉樹のような直幹は沢山集まると繰り返しの壮観である。広葉樹のように枝で分枝して伸張するものは複雑さの中にバランスが感じられるる。根元から多数の幹を分枝するものは優美さがある。自然風景でも人工の庭でも美観を添える。例えば,武者立ち,扇立ち

樹冠 木のよって粗密があり,密なものは緑の塊をなし,そこからボリュウムを感じる。常緑広葉樹のクローネ(樹冠)はこういうものが多く,重々しい。疎なものはクローネの中に空隙が多く,軽快である。温帯北部の広葉樹は小枝の多少と葉の疎密に関係している。小枝の多いものは落葉してから,レースのような小枝の編み物の美観が見られる。

樹皮と根張り 樹皮が薄く,滑らかなものは優しい感じがあるが,厚くて亀裂のあるものは荒々しい感じがある。亀裂は樹種で相違し,あるものは縦に長く,あるものは鱗片状である。幼齢樹の滑らかなものは老齢になると荒々しくなる。

樹木の根元 が座っているものは安定感がある。若い木は根張りが少なくても不安を伴わないが,老大木は十分に根張りがある方が不安を伴わない。土壌が流亡して根上がりになったものは荒らしく硬い感じがする。