今田先生「森林美学」講義第5回

今田先生講義録1964 北海道大学農学部林学科

11月11日

 

Der Aesthetische Wert der Horzarten樹木の美的価値(続き)

 

芽と葉 例えば新緑期には芽から葉が展開していく有様が美観をそそる。これは樹種によって特有の動きをする,その動きが美しい。

 マツ,イタヤカエデ,ポプラ,プラタナス,ヤナギ

そして,葉の形については植物学上の名称があるが,風致的には葉の大きさ,厚さ,裏表の色,葉柄の状態,葉の集まり方が問題である。カバやヤマナラシのように葉柄が長く,また葉が薄いものは微風にも揺れて,軽快であり,また,明るい感じがする。これに反してハリギリ,ホウノキ,カシワなどのように大きいものは重々しい感じがする。カシ,クスのように厚く硬いもpのは暗い感じになる。またナナカマドのように複葉は軽快であるが,キハダ,ヤチダモなどの複葉はこれより重い。葉柄が太く,短いと葉が枝に密着するようになり,風にそよがず,沈鬱になる。針葉樹は枝に密着しているから,暗い色も加わって厳粛な感じになる。一つ一つの葉の形も樹種がそれぞれ違い,様々な美観を持っている。

色の美しさ 三好学「植物生態美観」に次のようなことが載っている。「植物の中でもギンリョウソウの如きは真白であり,根無しカズラなどはほとんど白色である。また,ナンバンギセル,ヤマウツボなどのその他の寄生植物では無色あるいは緑色以外の色があり,また,下等植物中菌・,地衣,海藻などは極めて鮮美なる紅色,褐色,橄欖色などを表しているものが多い。しかし,通常の植物は緑色で,コケのような小さいものも数百尺に達する大木でも,固有の緑色を失わない。この緑色には濃淡の差があり,季節,気象などでも変化が現れてくるから,単調ではない。とにかく,草木の緑色は平生,見慣れて・・・もしも植物の基本色が緑色ではなく,仮に黄色,または赤色あるいは黒色であったなら,われわれの審美眼は根本的に変わるだろう。すべて葉の質が薄くて柔らかな植物,また一般落葉樹はおおむね葉の色が淡色で鮮明であるが,これに反して,葉肉の厚いもの,毛やその他の付属物のもの,概してトキワ属に属する色・・・様々に変わっている。マツ,スギ,モミジその他の松柏科では葉の色が黒ずんで見える。これは葉の組織がいたって厚いもので光線が十分に内部に入りきらないからである。これらは植物の葉緑素固有の色に多少関係している。グミノキなどは葉の表面に白い鱗片が付いているので葉が白く見え,・・・ハハコグサ,ウスユキソウなどでは葉や花の部分に細い柔らかい毛があって,その毛が空気を含んで,光線を反射するから白く見える。緑色の他に種々他の色が混じって黄色,赤色に見えることがある。また,葉に白い斑が入ったり,黄,赤,紫などの斑が入っていることがある。」

 紅葉は樹種と気候の関係があって,どこでも見られるとは限らない。ヨーロッパ中央部では紅葉が少なく,北アメリカ,日本ではこの点では恵まれている。紅葉植物の中でもモミジ類,ナナカマド,ツタウルシ,ニシキギ,ハゼなどの紅葉はとくに美しい。イチョウシナノキ,トチ,ハリギリ,イタヤ,ホウノキ,ナラなどは黄または橙色になる。カエデ類,カツラなどに見る春先の紅葉も新緑に映えて美しい.コブシ,サクラ,ホウノキなどは花の美しい高木だが,花の美しい潅木は沢山ある。花の色が葉の緑とはっきり区別できる場合,目立つことが多い。葉の色と同じ緑の花が咲くこともある。(カエデ)幹や枝の色と似ているものもある。(ニレ)このような密やかな花は樹木の特徴で,これに気づくと興味と美観を誘う。遠くから見てはっきり見える花の色は白,次に黄,赤の順になる。赤も薄くなると明るく目立ってくる。大きな花は目立つが,小さい花でも沢山でさえあれば,目立ってくる。

香り 植物の香りは主に花であるが,他の部分,根,茎。あるいは皮,木質に匂いがあり,また,葉,果実,また,生育している時に香るもの,また,枯れてから香るものがある。香りの性質と強さは様々で,快く感じるもの,悪臭を感じるものもある。また,遠くから分かるほど香りの高いもの,仄かなものもある。また植物体に手を触れなければ香らないものもある。木材に香りがあるものはビャクダンや沈香のような熱帯産のものがあるが,日本ではクス,針葉樹でエゾ,トドにも香りがある。葉が匂うものも多い。(カツラ)多くは揉んだり,葉に近づいて嗅がないとわからない。香りの高い花木はホウノキ,モクセイ,ウメ,サクラまど,しかし,草本類には多い。我が国で特に花の香りの高いものはモクセイであろう。10月中旬に花が咲くと一町くらい香りが伝わる。ホウノキニセアカシアなども花が咲くと周囲は芳香を含む。ウメも香りの高い方で風が吹くと良い香りが送られる。サクラの花は良い匂いをしているがあまり発散しない。ヤマザクラサトザクラにおは割に香りの高いものがある。我々が殆ど分からない弱い香りでしかもその形や色が著しくないものでも,昆虫が探して集まるところを見ると,昆虫の嗅覚は人間と違うことがわかる。嗅覚は目,耳のような高等感覚ではないが,美感の補助になるものである。

環境 樹木はそれぞれ美しさを持っているが,環境から切り離して美しいものはない。奥地林にあるものは深山の景色以外ではその特徴は味あわれない。イチイは多くの場合,下木として成長する。下木として育ったものを庭木としても多くは不調和である。ヤナギは水とともに眺めなくては趣が少ない。ヤチハンノキは湿地で特徴を発揮する。原野,丘陵,高原,山岳,火山灰地,河川など様々な土地にある樹木はそれぞれ環境に適応し,季節・・・・自然の美しさを示している。だから,それをそのまま庭園や公園に移植しても自然の美しさは味わえない。

 目で識別できる最も小さな植物はコケである。これは蘚類,苔類,地衣類であるが,石に上に生え,または木の皮に生えている。北方では緑色の蘚類,苔類が」厚くきぎを覆って,素晴らしい美観を示す。また,それ自身は目立たないが,樹木や地面,岩石などに付いているとそれによってその表面が自然化され美化される。(野化)地衣類には緑色のものが少なく,灰色,黄色,褐色などで深山の木から垂れ下がっているサルオガセな独特の美観を表す。草の類は草原として植物群落を形作り,美観を呈するが,これに樹木を加えると」いよいよ美しくなる。森林に囲まれた草原,原野の所々にある群団を成す美しさ,水辺のヤナギの散生,湿原に点々とヤマハンノキの散生など趣が深い。潅木類は大抵,地面から多数の枝が出て,それが枝分かれし,高木のように一本の幹から枝が出ているものが少なく,高木とは大きさで違うばかりでなく,樹形も違う。自然状態では高木と潅木,草本類と組み合わされて美しい関係を作ることが多い。・・・類の発達する熱帯,・・・それほど発達していない日本でもマンケ類?が美しい。これらが大木に巻きついている有様は自然的で美しい。