原生林の回復 ブナ林覚書

 学生の頃、ブナの天然林は東北地方を中心に広大な面積を占めていた。しかし、奥地林開発とともに高齢の天然林は老齢過熟林と言われ、生産性の低い森林として、生産性の高い人工林への改良が政策となった。1970年代に長野県カヤノ平のブナ林を見たことがある。巨木のブナ林の林床は折り重なる倒木がコケに覆われ、噴出すように様々なキノコ類が生育していた。キノコ取りの人々は南信からも来るとのことであった。そのブナ林も伐採の直前であった。ブナ材は木材として価値が低く、数百年のブナも低価格だということであった。丸太小屋を作った人がブナの切り株を手に入れて、そのような話をしていた。一方、ある木材会社は巨木のブナの木材を買い取り、倉庫に保管することも行っていた。ブナの天然林が伐採され、もう、数百年の材は得られないことを見越した先見の明であった。今、カヤノ平には小面積にブナの天然林が保存されているに過ぎない状態である。
 また、鍋倉山のブナ林の保護運動が起こり、渡辺先生に案内されて行ったことがある。巨木が僅かに残る林分であった。周辺の山地はブナが伐採された後で、豪雪地帯のために、ブナ林の再生は難しいとの話だった。白神山地のブナ林保護運動はそれから後のことであった。ブナの天然林はあまりにも急速に減少したといえる。ブナの伐採の跡地は、植林され、人工林へと転換しているのであろうか?林業低迷によって放置された人工林は、ブナ林の回復にとってどのような影響を及ぼすのだろうか?僅かな知見しかない私はただ、ブナ林が失われてしまったことしか、考えられない。
 ミズナラの天然林の伐採跡地を見たことがある。(駒ヶ根市池山)低木のすごい藪で歩道までが飲み込まれそうな、生育の勢いを感じた。およそ20年後になると思うが、その藪はミズナラの切り株からの萌芽林だあったことが分かった。株から数本の幹が伸びて樹冠を支えあい、そうした株立ちの樹林が形成されていた。ミズナラ林の回復が見られたといえる。しかし、切り株の林は同齢林となり、林冠に凹凸がなく、林木や株の幹同士が激しい競争関係で衰退の可能性もうかがわれた。かっての循環的に安定した天然林の再生にははるかな時間がかかりそうである。そのような再生した二次林でも自然のままの回復に困難さあると考えられる。カラマツの植林された場所ではミズナラの生育は見られない。ブナの類推はできないが、・・・