場所と場面の構造 農村地域の持続

 これまで長年、地域活性化で関わった富県区を中心に、農村地域の環境持続について考えてみたい。地域活性化が問題になったことは、農村地域の危機を示している。山村地域で過疎問題が言われ、それを乗り切る上で、村おこしが取り上げられた。長谷村では村おこしに関連して、公開講座に5年間参加してきたが、この時期とは異なる状況が農村地域に生じているのであろうか?山村から農村へと地域の危機が広がってきているとすれば、地域活性化による対処だけでは乗り切れない、深刻な状態が進行してきているのであろうか?検証していく必要がある。
 長谷村の村おこし活動は、山村の交通不便、農林業衰退による収入減少などから都市への人口流出により生じた過疎問題に対処するものであった。村おこしは住民の意識高揚をはかり、地域資源を発掘していこうとするもであった。公開講座は意識高揚に関連し、住民の議論を通じて地域資源の見直しも行われたといえる。しかし、それで過疎問題は解決されたわけではなく、ダム建設による開発効果に期待をかけるほかは無かった。
 富県区は、農地整備が行われ、伊那市市街にも遠隔ではなかった点で、安定した農業地域であったといえる。しかし、工場の進出や住宅地開発なども行なわれなかったために、人口は漸減傾向にあり、交通条件の改良も立ち遅れている。若年人口の減少が顕著となり、高齢化の進行の中で農林業が衰退し始めると、人口の漸減は留めようがない状態となろうとした。これが地域活性化を必要とした状況といえる。活性化の検討はグリーンツーリズムの推進へと展開している。ここで取り組まれたことは、山林資源の利用と育成であり、直売所による農業への住民復帰であり、自然環境・文化環境の評価と利用などであった。そして、住民の意識高揚をはかられ、様々な活動が取り組む地区、団体も生まれている。
 しかし、高齢化・非農家の増大が進展し、農業が衰退して、農地の維持が困難となっている。農地は養蚕の衰退で山麓部などの桑園が消失し、谷あいの小面積の水田、畑地なども消失していった。平坦地は圃場整備で機械化を促進させたが、労力減少によって農地の維持が危機となってきている。遊休地が拡大してくるのとは、逆に小規模な宅地開発が散在するようになり、混住地域の様相も生まれ始めた。伊那市全域の農地維持に関して農業委員会による農家調査が行われ、その実態を明らかにしようとしている。集落営農組合による個別農家の集団化も進められてきている。こうした事業自体が農村地域の危機的状況を現している。
 こうした現在の農村地域の事態は、将来、打開の道はあるのだろうか?混住化は地区の人口増加となるが、今後の人口減少の予測からすれば、その拡大と持続は困難であるだろう。また、純農村的な地域の性格を混乱させる。農地の維持の困難さは、今後、ますます増大し、遊休地が拡大することが考えられる。荒廃地を散在させると、地域の衰退は一層顕著なものとなる。遊休地が森林や自然地に戻ることはこれまでもあるが、開墾による開発順序を逆に自然回復で荒廃をカバーすることもよいかもしれない。放棄した水田にザゼンソウが生育し、また、湿地がトンボの生息地に変わった場所も見出されている。
 しかし、農地の生産的な持続がより重要である。それには農業の担い手を確保していかなくてはならない。多作目の小面積経営は、直売店の農産物供給に見られるようになった。一方、単作の専業農家が機械化などで大規模に経営することも考えられる。現在でもこうした二極化が進んでいる様相を農地の状態から読みと取ることができる。
 一方、山林資源は一時放置されていたが、近年、地域活性化の成果として森林育成への取り組みが行われている。長期的な森林育成と地域の環境材としての多目的で、多様な森林育成を行うことが、望まれる。