林冠と樹形−仮説の森林構造(1)

はじめに
 間伐方法に関して記述を進めようとした時、経験と知識の範囲を逸脱し、空想的な仮説に至っていることが心配になってきた。荒唐無稽なドグマとなりそうである。しかし、色々な疑問が生じているので、疑問に対する推論の仮説として自由に森林空間論のメモとして記述を進めることにした。古い林学で学んでいるだけであるから、先進的な専門の方々から、当然の批判と誤りの指摘があることは覚悟している。仮説であるから、そうした批判と指摘を、おいおい学習しながら自分でも見つけて、修正にいたりたい。
 今回、林冠と樹形の関係、量的間伐と質的間伐の関係の形態的な面に関する疑問に関して、仮説的な推論を記述したい。

林冠の密度効果
 森林の密度効果の基礎となる密度理論は、吉良先生が野菜などの播種後の間引きに注目して、間引き効果の理論化によって成立したと聞いている。これを森林に適用して追求したのが、四手井先生であることは周知の事実としてよいであろうか。受光と光合成による植物の成長を物質生産としてとらえるところに、密度理論の根拠が置かれていると言ってよいとすれば、森林の受光も陽光が平面的に照射していることを前提としている前提があると考えてよいのであろうか。
 閉鎖した林冠は、林冠を平面的に見て隙間がなくなる状態である。樹冠投影図や被度の割合はこれを表示しているものであろう。そして、平面の面積を固定して考えると、個々の林木の樹冠の広がりが小さい程、高い密度となり、大きいほど、疎となる関係がある。しかし、これを垂直断面図に著すと、樹高に対して樹冠の厚みがあり、林冠表面に個々の林木の樹冠による凹凸が生じている。
 林冠の凹凸は樹冠によって生じているので、林木個々の受光面となる樹冠の厚さといえる。閉鎖した森林で、密度によって平面的な樹冠範囲が限定されても、森林によって樹冠の厚さが相違する。厚さが小さくなることは、立体的な受光面を少なくすることになる。間伐によって疎開し、林木が生長すると樹高とともに樹冠が拡大し、樹冠の厚みが増大することになる。閉鎖は樹冠の拡大を停止させ、樹高成長だけを可能とする。樹冠の厚みも抑制するようになると、林冠はより平板となるといえるだろう。密度理論に基づく量的間伐が均質な密度の森林に適用された森林の林冠の変化は以上のようなイメージでよいのであろうか。
 密度効果を模範的適用した均質な密度の持続による森林管理のための量的間伐が広まり、人工林は一層、人工的になったのではないだろうか。均質な密度の森林は、樹冠の形までが四角形となって林冠を構成し、林立する幹の太さも一律で、等間隔に並ぶ列柱となり、閉鎖した林冠によって林床の植生が抑制されてくると、建築的空間に相似してくる。しかし、こうした人工林は、集約的な労力を要して伝統的な林業地域で展開したものであり、密度理論によるよりも、密度理論がこうした林業に理論的論拠を与えたと考えられているのだろう。床柱材生産を主眼とした北山林業のスギ林業景観は、その規則的な樹冠と幹の模様が地域景観を特徴づけている。