シャーロック・ホームズの風景

はじめに
 中学生の頃、シャーロック・ホームズが好きで、いくつかを読んでいるが、それは、推理方法の見事さであった。最近、動画から40巻が無料で見れることを楽しんでいるが、街路で、かがり火がたかれ、貧民が巷にあふれ、馬車の行き来があり、植民地で一旗あげた金持ちが地方の豪壮な邸宅に住んでいることなど、物語の背景となる風景に興味が大きい。市街は、ロンドン、ホームズの依頼主は貴族などが多い。ホームズは極悪な犯罪を暴き、正義の観点から、犯人を律する。当時の社会構造が大きく事件に反映している。汽車の運行が見られるところは、19世紀半ばから後半であろうか。

貧民街の風景
 エンゲルスの描いたイギリスの住宅問題の姿である。街路には物乞いがおり、汚れた服装の子供が群れを成している。おまけにアヘン窟までもが見られる。インド人や中国人も貧しい階層に紛れ込んでいる。資本主義が発展し、都市に人口が集中している。一方、警察組織が既に出来上がっており、犯罪の捜査に当たって、ホームズと競い合っている。スコットランド・ヤードについては、小池滋:ロンドン、中公新書に記載がある。

地方貴族の邸宅と庭園
 王室を中心とした貴族は、政治の重要な局面を握っており、資産家でもあり、犯罪者から狙われる。地方には広大な所有地とともに、城館を所有している。執事が土地と城館を管理し、家庭教師や召使い、庭師、馬などの飼育係など大勢の人が役割を持って働いている。城館あるいは邸宅も大小があり、こうした邸宅を所有する貴族たちが、相互に招待して、宴会を催して交流している。邸宅は庭園を巡らし、農園や荒地に広がっている。
 しかし、こうした地方に貧しい農民の村があり、教会などもあって牧師が村人を慰めている。

植民地、民族解放運動
 資産をなした貴族や企業家の中には、植民地で資産をなした人も含まれる。その植民地での行為が犯罪を呼びさますことがある。外国の圧政者への独立運動からイギリスに逃れて来る人々も犯罪に関与してその姿が描かれる。

大英帝国
 講談社現代新書の長島氏の著書の代目にである。副題が最盛期イギリスの社会史とある。シャーロック・ホームズが3年間姿を隠したとされる年が1891年とされ、ヴィクトリア時代の1837〜1901年の後期にあたるあたりである。1873年からその後の20年間、イギリス経済は大不況に落ちいっていた時期である。ヴィクトリア朝初期は長島氏は飢餓の40年代と指摘しているおり、エンゲルスの労働者の状態への指摘に符合している。産業革命は実りの時期となり、1830年に最初の鉄道の敷設がなされ、1850年代に鉄道建設ブームが一段落したとされている。生活水準も向上し、繁栄期であった。しかし、後期には不況期となり、シャーロック・ホームズに描かれた貧民街が出現することになったのであろうか。