源流域の石礫の風景 ー森林美学よりー

 河川流域は多くの支流河川を本流に集合した本流によって構成されている。各支流もまた小さな支流の集合であり,それぞれの支流の出発点に源流域がある。人里に近い支流河川には源流域を日常,間近に見ることができるが,3面貼りの人工河川の奥の奥に隠されている。地下水が地表面に浸み出し,小さな崖を作る。堆積層の地質では土壌と土壌に含まれた岩石が崖を作り,流路の表面に岩石あるいは石礫が堆積し,その石礫の間に流路が左右の石にぶつかり曲折して流れる。流れに細かい砂が動きながら堆積し,また流される。しかし,小さな流れでも豪雨となり,水量が増大すると崖が崩壊し,土石流となって多くの土砂を堆積し,土石の流路では大きな石礫も下流に向かって転がって動いていく。そして,流量と流速が緩慢になって大きな石礫から堆積する。

 森林美学にはランドスケープを構成する要素として,石礫の章が2章設けられている。河川のこうした石礫の生産と挙動は砂防工学の専門領域となっており,これらの章の英語からの翻訳は専門家の丸山先生が担当しており,現代の砂防工学により,異論となっている点も指摘されていて,原著の出版された百年前の知識との相違も認識できる。石礫の最初の章には,緻密な源流域の風景画が掲載されており,急峻な源流域の河川の地層を削る岩石を露出した,急流の状態を描いている。森林美学に何故石礫の章があるのか?と疑問となるが,森林の基盤には地層があり,その地層の露出して,風景を見せているの急峻な流れの場であることを考えると森林美学を理解できる。すなわち,ランドスケープを構成する一要素として森林があり,森林は地層を覆う地表面に成立した植生景観ということである。

 日本庭園の構成要素には築山に滝口と池が石組みで構成されている。庭師は古来より,こうした庭園の石組みや植栽の構成を山の自然から学ぶことが重要であることが言われている。上原敬二が明治神宮の造営に従事した時,庭師が流路の石組みに日本庭園の手法が適合しなくて困っていた時に,自分が作り方を助言したことを著書に指摘したことを書いているが,技師のい就任して,造営工事全体を指揮した本郷高徳の記述には石礫の採取場所を探索し,大量の石礫を吟味の上に搬出して明治神宮に石組みしたことを指摘している。これは新しい自然模倣の方法であり,森林美学の考えが適用されたと考えられるのである。