今田先生『森林美学』講義第1 回

今田敬一先生「森林美学」講義録1963-1964 北海道大学農学部林学科  

 

私が21歳であった時,今田敬一先生の「森林美学」講義を書き留めたものである。

今田先生講義録1964 北海道大学農学部林学科

 

10月14日(水曜)

Forestaesthetik und Landshaftliche Baukunde

Einleitung(総論)

 森林美学はForestaesthetikの直訳である(本多静六)Forestは森林,Aesthetikは美学という意味である。但し,Forestaesthetikを日本語に訳し,森林美学といっても原語の意味とは一致しない。Forestは施業林を」意味する,その訳は施業林美学となる。これがForestaesthetikの歴史的内容である。言い換えるとドイツで施業林の美学として発達した。しかし,現代の解釈では必ずしも施業林に限ることはなく,原生林,公園林などを対象にしても差し支えない。したがって,Forestaesthetikというよりは,Waldtaesthetikと言っても差し支えない位である。なお,Forestaesthetik(Wappes)というかわりに,Waldshoenheitsulehre(Wimmernauer)といった別の名も与えられている。

 ところで,森林を取り扱う上で風致を考えることは昔から存在した。例えば,ギリシャ,ローマ,中世期にも見ることができるが,18世紀になって顕著になった。その頃の林業関係の著書の中に森林の風景に対する記事が散見するようになった。19世紀前半にその傾向はますますはっきりしてくる。19世紀の林学の建設者たち,G.L.Hartig, v.Cotta, Koenig, K.Heyerなど,いずれも森林の風致のことを考えている。殊にK.Heyerはその著書のなかに森林美育成に関する1章を設けている。また,Koenigの後にBurchhardtがKoenigの考えを押し進めている。その後,プレスレル,ユーダイッヒ,ノイマイステルといった人たちも森林の風致を取り扱っている。その後,Heinrich von Salischが出てForestaesthetikの著書を著し,森林美学に一つの科学としての体制ができた。科学としての森林美学は応用美学に属する。但し,その発達の歴史からは林学の一分科と考えられ,初めは造林学,森林保護学の一分科であった。また,森林の基礎学に数えられることもあり,林学の総論のなかに入れられた。一方,造園学の方では森林美学はその一分野と」考えられている。いずれにしても生活がだんだん自然から離れ,その反動で自然に還ろうといったことから発展した。現在では自然保護の精神が強調されている為,森林の風致を考えて経営することが要求されている。そこにわれわれ林業家の義務があると唱えられている。von Salischは風致を考えることは次のような利益があるとしている。

⒈風致を考えることは経済的な林業を指導する。

林業に携わる者に仕事に対する満足感を与える。

⒊民衆が森林を愛護する。

⒋森林の美しさは民衆を定住させる。

 

森林の衛生的効果

森林の空気  酸素,オゾンに富むと言われるが,それより大事なことは枝や葉が空気を濾過してチリ,細菌を遮ることが衛生的である。

森林の土壌  酸性である為,有害バクテリアを生息させない。その意味で森林から出てくる水は純粋である。

森林の防風作用  壁のように遮らず,緩やかに遮る。爽やかな風となり,それが衛生的である。

心理的効果  緑の色彩の印象が心に安らぎを与える。森林の香りは薬理的効果の他に心理的効果がある。