今田先生『森林美学』講義第2回

 今田先生『森林美学』講義録1964 北海道大学農学部林学科

10月21日(水曜)

 

Naturshoene

自然美

 われわれは毎日多くの美しいものに触れている。ところでShoeneheit美 の」領域は様々な角度から分類することができるが,その中に芸術美に対する自然美というものがあるという考えが広く行われている。美学上,芸術美に対して自然美というとき,人間や社会,歴史などを含めて,」人生に体験する美しさも自然美のなかに含まれる。しかし,ここでは自然美の中で特に重要な風景美Landshaftsshoenheitを考える。風景美について昔から哲学者を始め,色々な人が取り扱っている。その中で自然美論がある。例えば,Vischer, Halier, Ruskin,英国のAveburyが特に有名で,近くはThoeneなどがいる。ところでそれらの人たちは自然美を4つの要素に分解している。Himmel(空),Erdboden(大地),Wassel(水),Pflanzen und Tierleben(植物・動物),志賀重昂明治19年卒)日本風景論(明治19年

 空の美しさというのは光と空気に満たされ,高く大地と海の上に広がる空で,雲を浮かべたり,晴れたり,曇ったりする美しさで,そこには日や月や星の美しさも含めて考える。万物は太陽の光のもとで色彩を表し,明暗を生じ,美しさを発揮する。また四季の変化,朝夕の変化など太陽は風景美を支配する。夜に現れる月の光は弱いけれども,情緒的である。また,星夜の美観もある。

 土地,大地の美しさは,われわれが立ってうぃる土地の美しさである。山岳や渓谷,丘の美しさ,野の美しさまたは岩石の,砂の美しさ,土の美しさも挙げられる。それから火山現象や新色に含まれる美しさもある。

 水の美しさ,雨となり,雲となり,露となる水,湖沼,川,海としての美しさである。東洋では風景のことを山水といって山と水を風景の代表的要素と考えられている。水は元来,静止的であるが風のために波となり,河川では流れ,滝となって動的美を発揮する。

 植物は風景の大切な要素となることはいうまでもない。この中には当然森林美が含まれる。木は孤立木としても集まった大森林としての美しさもある。それから,鮮やかな新緑,燃えるような紅葉,落葉した姿にもそれぞれ美しさがある。また,木の種類によってもそれぞれ美しさがある。草本類の中には花の美しいものがある。蘚苔類も独特な美しさがある。

 動物はそれ自体が美しいものが多く,それが飛んだり,走ったりして動的な美が顕れる。また,聴覚の美で, 鳥・虫に声を添えてくれるものが少なくない。これらが総合して美を生じる。

 

ランドシャフトの色彩美 Farbensshoeneheit der Landshaft

 風景を彩る基本的な色は緑である。常緑広葉樹の多い地帯は濃い緑,落葉広葉樹の多い地帯は明るい緑,針葉樹の発達している寒冷地は暗い緑が支配する。これらの樹の緑に比べると,草の色は」明るい。花の色がこの場合に加わって色彩を豊かにしている。春は黄色や白い花が多く,春から夏にかけては赤や紫が多くなる。秋には又黄や白が現れる。暖かい地方では赤や紫が多くなる。高山の花は色彩が特に鮮やかで,お花畑に現れる。高い緯度の花は高山に匹敵する美しさを見せてくれる。

 落葉広葉樹の地方は季節変化に恵まれている。この大きな変化が魅力となる。熱帯にはラテライト,紅土が発達し,寒冷地ではpodsolで白っぽくなる。また,花崗岩地帯の岩肌は紫紅色の陰が生じる。ところで,風景の色彩の中には光輝を伴うようなことが特徴となっている。例えば朝焼け,夕焼け,虹の色は光っている。水の色も輝きを持っているのが当然である。ゲーテの南の国への憧れは輝く色彩への憧れである。赤道の紺碧の海は光が溶けて流れているように見える。北国では雪が,青や緑,バラ色,真珠のような光を帯びて輝く美しさがある。水の美しさは輝く色彩となって美しさが高められる。ヨーロッパの湖は高山にあっては概して青く,石灰岩地帯では青緑色,安山岩地帯では褐色を帯びた濃緑色であると言われている。北海道の湖も摩周湖支笏湖のように青いのが,特徴である。

 氷河に包まれた山岳も輝く色彩である。氷河は半透明の乳白色である。雲の色も多分に輝きを持った色彩である。例えば天空高く上がる巻層雲,高積雲,積雲などいずれも明るい青空に浮かぶとき輝きを」持っている。火山の煙も雲に似た性質を持っている。また,風景の中には自ら輝きを出すものがある。太陽,月,星などである。

 

ランドシャフトの形態美 Gestaltenschoenheit der Landschaft

視野の傾き

 視野の中の風景がある傾きを持っていると,風景が形の上で美しくなる。それは平らな土地が」眼に映ずる景色は近くのものであるが,傾きがあると色々のものが見える。高いところから見下ろし,見上げる風景も眼に映る風景は複雑となる。例えば山岳は多く満足を受けるがそれは眼に映る形の変化が多く,それが満足となる。

動き Bevegung

 風畏敬に動きがあると形の上で変化が現れ,美しく感じる。風に揺らぐ葉,風に揺らぐ麦畑,水の流れ,波,浮動する雲,飛び立つ鳥,など形のうえの変化が現れる。もう一つ,風景を見る人が風景の中を移動することも見る位置が変わり,角度が変わり,新しい風景が現れて,美しく感じる。あまり,早すぎないほうが良い。

視野の中に限界があること

 風景はある限界があると視野にまとまりでき,風景が掴みやすくなって美しさを感じる。例えば,樹に囲まれている美しさ,林間の草地,並木に挟まれた街路,樹木越しに見る風景などでは,目の前の樹木が額縁のようになり,視野が限定される。渓谷が美しいのは左右に崖があり,視野が限られている。同じ理屈から庭園には垣根が必要であり,絵画には額縁がいる。