風致と風景 風・大気

 風景は大気を透して知覚される。あるいは大気に満たされた空間を知覚しているのかもしれない。桜の花が風に舞って散り、視界を遮るけれど、風景を一瞬、背景に変えて、空間の奥行きを鮮明にする。大気は気流の風となって空間を流動し、事物にぶつかり、風景の主役が大気であることを気づかせる。
 花びら、落ち葉、雪、霧雨、煙や埃までが、気流の緩急や気ままな流れを見せてくれる。軟らかな草や木々の枝葉も風が当たる様子から、気流の筋や脈動を表現する。海の波は、風が巨大な水面を揺り動かす。そしてまた、空の雲を押し流し、地上に雲の影を移動させる。日光が雲の影から出てくると、光に満ちた地上の世界が広がる。激しい嵐は地上の平安な風景を激動の世界へと転換させる。
 風が頬に当たって気持ちよさを感じたり、凍える冷たさを感じたりする。風は気温や湿度を含んでいて、風の強さの感触とともに寒暖を感じさせる。その大気の作用が生物に影響し、空間全体に及んでいることを知覚させる。