美学の学習

はじめに
 エチエンヌ・スリヨ(1892- ):「美学入門」は1974年に翻訳、出版されており、以前に購入していたのだが、再度、読み直し、美学の歴史とフォン・ザリッシュ(1846-1915)の森林美学に影響を与えたものが何かを探ることにした。フォン・ザリッシュの森林美学(1885)には、ヘーゲル(1770-1831)とフィッシャー(1807-1887)の名前が上がっている。

美学の歴史概略
 訳者の古田氏のあとがきに美学の歴史を概略している。プラトンイデア説による美学、アリストテレスカタルシスの理論、プロチノスの神秘主義的美学と古代哲学のもとで生まれ、中世の神学的美学、ルネッサンスの哲学的美学から、バウムガルテンの合理主義的美学が現れ、近世哲学のカントに到って、「判断力批判」における哲学的美学の確立を見たとしている。「ドイツ観念論ロマン主義の思潮にのって・・・シェリングヘーゲルにおいてその頂点に達する。」19世紀後半に自然科学の興隆から科学的美学が起こり、先駆的にフェヒナーの下からの美学(近代心理学・実験美学)の方向が生まれた。心理主義美学として感情移入を中心とした追及がある一方で、社会学的方法による美学、これはマルクス主義における唯物論的方法の追求を包含している。さらに、現象学実存主義の現代哲学諸流派、精神病理学精神分析学、言語学の様々な領域で追求される問題となったということである。
 こうして見ると、フォン・ザリッシュの生きた19世紀から20世紀にまたがる時代で、科学的美学が緒につこうとしていた時代といえるのだろう。上からの美学が下からの美学に転換する中で、フォン・ザリッシュは進んで、大衆化する社会的動向に対応し、美学の進歩に即応したことがうかがえる。

森林美学
 フォン・ザリッシュは、森林に美を見出すとともに、森林そのものが美なるものとして、森林美学を成立させることを考えたのであろう。文学者やギルピンの森林に対する見方、美の体験を重視し、自らの感性によって森林体験が美的なものであり、その体験を深めることが誰にとっても可能な普遍的な問題と考えたのであろう。芸術美と自然美の関係を論じて、ヘーゲルの芸術美を中心においた美学に疑問を呈している。森林美は自然美を中心に成立しており、自然美を人が意識しても、意識されたものによって自然美が創造されるわけではない。創造されるものは芸術美であり、その芸術美が意識されて次の芸術美の創造の可能性がある。この、芸術が芸術を創造する過程がヘーゲルの美学の対象とされた点に、自然美への乖離を考えたのであろうか。そして、自然美を意識することは、芸術的な創造の源であり、自然美を意識する上で芸術美の意識も作用さするが、次なる芸術美の創造ではないという考えとなって、自然美を尊重する論拠となったのであろうか。
 さらに、ヘーゲル以降の美学では、フィッシャー(1847-1933)をフォン・ザリッシュが取り上げたが、森林美をどのようにとらえようとしたのであろうか。フィッシャーはドイツにおける感情移入理論の支持者であったということである。フランス、イギリスで感情移入の理論が取り上げられ、ラスキンの近代画家論にも感情移入が記述されているということである。しかし、ラスキンの影響を見出すことは出来ない。