造園の立場―仮説の社会構造

はじめに
 私の専門は造園学ですと、名乗って40年あまりを過ごした。大学では産官学の協同が言われるようになり、学会の構成にも、計画家、行政官、大学の教員が加わっている。しかし、最大の造園需要となる一般生活者は加わっていない。造園の生産基盤は、こうした生活需要に依拠したものといえるが、公共造園における行政と造園計画への住民参加、個人庭園における造園建設業に対する施主としての需要と限られた姿でしか見えてこない。一般生活者の戸外空間と園芸・庭園趣味の実態は明らかではない。造園業界にとってこうした社会的な市場構造を明らかにしないまま、造園生産技術を展開してきたといえる。
 造園学を体系的に確立するために、生活基盤から遊離した業界の構造を脱皮する認識が必要であり、旧来の技術を脱する可能性は、造園学の確立にあったといえる。これをなおざりにしてきた者として恥じ入るばかりであるが、新たな気持ちで取り組む他は無い。現状の造園業界の生産構造を明らかにすること、生活環境における戸外空間の理念的な方向を把握することともに、社会構造的な実態を明らかにすこと。造園技術を構成している要因を分析し、社会的需要との関連性を明らかにすること。その他にもいくつかの課題があるだろう。
 市民工学の訳語でもある土木技術の展開を考えれば、建築技術や造園技術は、個人的な需要の邸宅や庭園に出発点を持っている。市民社会の成立によって、一般市民の住宅の需要に即応し、造園は住宅の戸外空間の技術を即応していったといえるだろう。こうした土木、建築、造園の分野的な位置関係をとらえることが、重要である。しかし、この位置関係は固定的なものとは言えない。生活における趣味的要求の増大、人工環境と自然環境とのバランスの必要性は、技術分野の重点を変えていくと考えられる。しかし、造園学に体系が確立していないことによって、土木、建築分野との、技術、知識の水準に大きな格差が生じていることが明らかである。そのため、造園の専門性が、土木、建築分野に包含されていくという問題が生じていることを認識すべきであろう。市民工学という点からは、3つの分野は、社会的必要におうじた一つの分野であると言ってもよいのであろうが、社会的需要に対応できる専門技術の特性を発揮することが重要であり、土木が市民工学に展開してきたかといえば、環境の基盤づくりでは、成立しても、全体的な環境には対応してはいない。新たに都市計画の分野が全体的な環境に対応しようとするものであろうが、都市発展が、制御困難な混乱を生じさせている限り、分野間の体系的な連携の成立は困難であるのだろう。逆に、分野間の体系的連携によって都市発展の制御を可能にしていくことが、専門分野としての責任であるといえる。
 この40年間に造園業は、量的、質的な展開を遂げてきた。しかし、この急速な展開が体系化の思考を停滞させたといえるのかもしれない。社会構造の変化(高度経済成長の影響)によって、造園に対する需要が増大し、この需要に対応して展開することに追われてきたからである。こうした展開の集積を造園技術として編集されているが、体系化の根源となる造園技術の理念が不明確なままであり、その集積の体系化が行われていない状態である。現状の錯綜した展開に体系化の見通しが遠のいていくようであり、まず、この錯綜を考察してみる必要がある。

商業的な造園
 現在の造園業の志向には、商業的な効果としての造園空間の構成が大きいのではないだろうか。造園業自体が商業的に成立しようとすることが、この志向を増幅させる要因でもあるだろう。中心市街の経済的な衰退は、新たな中心市街を形成して、旧市街を没落させ、旧市街は再開発によって更新して、競争力を取り戻す。地区間競争、地区内の企業競争が、経済的な利益の追求によって生じる。都市空間の先端を競うデザインが、都市空間に動的な変化を生じさせている。巨額な投資が、消費者の集中をもたらす空間を形成する。この空間形成に造園がどれだけ参画できるかは、分野間、企業間の競争によって予断を許さないことである。高層建築の屋外庭園、あるいは屋上庭園やアトリウム、街路空間、駅前広場、港湾の再開発における海岸の復元、歴史的空間の再整備など、都市の魅力的空間の形成が競われている。

建設業としての造園
 生活重視の公共政策がの展開に、公園緑地の増大が必要とされた。都市環境の抜本的な改造がなされないまま、散発的な公園建設が進展することになった。個人庭園を主とした造園業界は公共造園の建設業として展開することになった。
植栽管理としての造園
 多くの住宅庭園には、生垣や庭木を管理するために、造園業者の作業を見かける。毎年の作業であるから、庭園建設の段階よりも継続的な仕事の場である。施主の生活空間の維持にとって、植栽管理が必要であり、植栽管理によって戸外環境向上の可能性がある。造園の本来的な専門性は植栽管理にあるといっても過言ではないだろう。
庭づくり趣味
 庭づくりは、趣味とはいえないぐらいに生活につながっている。土壌があり、光があって、水を供給すれば、植物の生育条件が整う。機能的な戸内でさえ、無機的な空間を和らげる生物的空間が求められる。生活空間が狭小であることは、生物の生育空間の余裕を少なくするのに、一層、生物的要素が重要となる。生物的要素は自然的環境の断片であるが、無機的な自然環境を有機的な環境に蘇らせる要因である。人間が生物的環境を求めることは、趣味以上に本源的な必要に由来しているのかもしれない。