津波から残った海岸林

はじめに
 陸前高田の被害は凄まじいものだった。災害の跡を訪れて、普段外海の波を和らげる湾の地形が、津波の力を増幅して大きな破壊力を発揮したことを実感した。内海に面して安全と考えて暮らしてきた市街地の人々、その市街の無残な変わりようは、人々の苦痛を表していて、胸をつかれた。
 数十万本ものクロマツの高齢の海岸林はたった1本の松を残して、幹がへし折られ、るいるいと折られた幹が地面から突き出ていた。人々が楽しんであるいたであろう海岸林もまた無残な姿に代わってしまった。その海岸林を津波を防ぐ効果を発揮しなかったのではないかと嘆くことも悲しみの大きさからやむを得ないことなのであろうが、人々共に被害を受け、1本だけが生き残ったことの奇跡に感動もされ、保護して記念碑とすることも人情であろう。
 災害によって廃墟となった市街は片付けられ、復興に向けた取り組みが行われようとしている。海岸林もまた再生するのだろうか。以前あったような人々の賑わいは戻ってくるのだろうか。その希望が人々を力づけるのではないだろうか。亡くなった方々への弔いと鎮魂は、これから生きていく人々の勇気をふるい立たせるものであることが期待されている。