生駒山地の実体

はじめに
 大阪府民の森は約40年前に設定されているが、現在、府民の森の園地利用にとって山地が放置されることによって成立したコナラ林が問題となっている。放置林は、府民の森にかぎられず、生駒山地全体にあり、さらに、日本全国の里山に存在している。しかし、山地、森林の利用の状況は各地で異なり、森林の状態も各地の自然条件、歴史的条件によって相違している。府民の森の利用は生駒山地全体の利用の一環であるので、生駒山地に目を向けてコナラ林の問題を取り上げる必要があるが、大阪府民にとっての生駒山地の実体は不明確であり、無関心であるかのように語られる。日々の生駒山地稜線の遠景が幻影のようなものであるとは思えない。
 生駒山地大阪平野奈良盆地のそれぞれの外縁部を作り、府境・県境となっているだけではなく、山地の実体があるはずであるが、それが感じられるのは、交通の大きな障害となってきたことである。山地を越える峠道、河川によって奈良盆地大阪平野に開かれた場所は一箇所だけである。電車のためのトンネルの開通、道路のトンネルはこの困難を暗闇の通過に変えた。遠景の生駒山地も近づくにつれて山地の量塊の大きさが実感されるが、生駒山地の全貌は見えなくなる。

生駒山地の範囲と地形
 生駒山地は大阪側からは淀川と大和川に区切られた広大な延長を持ち、京都、奈良側に主に尾根部を境界とした山地の奥行を持っている。しかし、尾根の標高は高くなく、奥行の広さとともに丘陵の山波を広げている。しかし、山地の傾斜と水利の不便さのために、農業開発は進まずに山林や草地が保たれてきた。特に大阪側に向かって稜線から急傾斜が迫って開発を阻んできた。

里山としての生駒山地
 生駒山地山麓、山間には古くからの集落が平野部の農村から連続して散在している。それら集落の農地の広がりに面して斜面の山林が接続しており、集落の裏山であり、集落の社寺境内に後山の役割を果たしている。その山地は草刈場、薪炭林として利用され、果樹、花き栽培などの利用とともに開発が行われた。典型的な里山と言えるだろう。そして、奥山と言えるような区域を待たない全域が人の介在する山地となっている。
 里山の集落を中心とした山地の利用は 集落を単位とした利用であり、多くの集落単位の集合として生駒山地里山が存在している。山地は連続し、集落を集合した地区、地区は行政区域の地域である市町村、さらに府県へと管轄されている。里山は一体のように見えながら、その区域の境界によって分割している。
 高度経済成長期に農家と集落の里山の利用が減少してくると、山地は放置された森林となり、連続しているように見えるようになった。同時に都市地域の拡大が山麓に及ぶようになり、山地の開発が進められ、郊外化が進行していった。里山は利用の衰退と郊外化に伴う山地開発によって変容し、その変容の程度によって、地域的な特徴の残存や消失が相違しているといえる。

生駒山地による地域環境
 生駒山地大阪平野奈良盆地の境界に位置していることによって、両者の気候的特徴が作り出される。大気流動に影響を与え、以前の大阪の石炭による黒煙の大気汚染も奈良盆地までは及ばなかった。生駒山地自体の気候的特徴は高地であることによって、冬は寒冷となり、夏は清涼となる。
 大阪郊外化による住宅開発は、生駒山地を生活環境に近接させた。住宅地にとって山地は自然環境であると同時に、自然災害として土石流や山地崩壊の危険性をもたらすものともなった。安全で快適な居住環境は住民生活に不可欠なものであり、山地の緑地、環境保全が重要視されている。これらの地域住民に対する山地保全の対処は主に市町村の行政体によって進められている。山地の森林の状態はこうした環境保全に大きな関係を持っている。

生駒山地の休養利用と自然環境保全
 生駒山地は交通の発達とともに、名所や行楽地の利用がなされてきた。電鉄路線の整備は都市中心部からの近接を容易にし、行楽地、ハイキング地としての利用が増大していった。遊園地やスカイラインなどの整備もなされてきた。これらの利用は生駒山地の部分的な利用であり、それらの歩道などによる連接によって構成されているといえる。
 自然休養の場として生駒山地の利用は、山地の一部に過ぎず、歩道などの管理は、地域による山地の交通路の確保と山地の生産的利用のために行われてきたものである。休養利用者はそれらの施設をただ利用するだけのものであったといえるだろう。都市への人口集中や生活時間における余暇の増加と健康のために休養利用者が増加し、生駒山地は都市住民の緑地としての意義が増大してきた。戦後の自然公園の拡充にいち早く、国定公園の地域指定が行われた。
 国定公園の指定によって山地の乱開発に歯止めをかける根拠が与えられ、自然保護が推進されることになった。一方、林地利用が衰退することによって森林の放置が進行した。これは自然保護と同義となったが、施設と森林管理の停滞は自然休養利用の環境を悪化させることになった。
 乱開発の防止の徹底と利用施設の整備を行い、自然環境の管理するために、土地の公有地化を進め、府民の森が設定されることになった。しかし、それは広大な山地の一部であった。