林木の保育と森林の保育

はじめに
 「森林保育」は林業上の作業として行われ、四手井先生の著書「森林保育と生態」もある。森林保育は植林、下刈り、つる切り、除伐、間伐などの各種の作業によって構成される林業上の林木育成のための作業である。最終的な林木の収穫を期待して森林保育の作業が実行される。人工林の放置はまさにこの保育作業を実行しないことである。
 森林はある程度の大きさの樹木が群生する場所と環境と定義されるだけで、実際は大小の場所、森林を構成する生物相の種類によって、相違し、その定義は多様な存在として成立するものである点を加えなくてはならない。生態系からや生物の進化からの定義とすれば、植物による地球の被覆の様相を構成するものといえるだろう。人が森林の様相を改変し、分断することによって、森林の定義が複雑になってきたのではないだろうか。原始林は失われ、天然林、自然林、二次林、人工林の定義が必要となった。これらの定義は森林の原始的状態の改変と回復の程度を示すものともいえる。森林の保育はこの自然の回復を助長する作業となるであろうが、その定義はまだなされているとはいえない。
 近代林業は、森林破壊による環境悪化、資源の喪失から森林の育成への転換として生じたとされる。計画的な森林資源の利用によって、森林を持続させ、資源を永続して利用できる森林循環を作り出すことが求められ、林学を成立させた。林学に基づく林業自体が、人工林の状態の森林を保育する作業といえる。森林全般の回復に向けての保育作業は、木材資源の育成を目的とした林業からの脱皮が必要とされている。

森林の保育
 メーラーによる恒続林思想は、森林を有機体としてとらえ、林業はその恒続のための作業と見なす点で、森林の保育の考え方といえる。しかし、森林施業による恒続林の森林構造を具体的に見いだすことは難しい。森林有機体はアマゾンの原生林がモデルとされたことが記されているが、熱帯の原生林から、ドイツの森林とのつながりがどこにあるのかは、明確ではない。示唆としてはダーウィンの進化論が関与していることが示されている。森林有機体は今日の森林生態系と一致するのであろうか。多くの推論の余地が含まれている。
 様々な森林を体験すると、森林の階層構造が相違しており、人間の知覚から、見通しの良否が判別され、見通しは森林の近接した細部から遠方の全体の展望に広がっている。階層は下層の林床空間から上層の林冠による林内空間を構成している。また、場所によって林床空間と林内空間によって構成される林相が変わってくる。また、時間的な季節変化、森林の成長によって相違してくる。これらの空間とその変化の精緻な構造として森林有機体が見いだされると想像される。
 林業における保育作業は、林木の成長に即して細部から林内へと作業範囲を拡大して、森林有機体に影響を生じさせると考えられる。森林の保育は林木への作業を森林の空間構造の動的変化への影響に転換させるものと理解される。